RECORD

Eno.846 無々色 七葉の記録

回想:神秘に触れた日(後編)

「…………寒い。」
次に目が覚めたのはひどく寒く暗い部屋だった。 ……そういえば、自分の声も聞こえていた。
さっきまでのは夢? それにしては趣味が悪いほどにリアルだった。
そうでなければここは天国……ううん、ちょっと待遇が悪すぎるし地獄だろうか?
不本意だけど、自分でも結構悪い子だと思ってるから仕方ないかなって思う。
「……誰か、いないかな?」
諦めもついた事だし天国でも地獄でも良いのだけど、どっちにしてもここは寒いしちょっと寂しい。
今なら悪魔に会っても嬉しくなりそうなぐらいに心細かった。
立ち上がり、縮こまるように自身の左手を右手で掴もうとして……
「………あれ、裸!?」
慌てて身体を隠すための物を探そうと辺りを手探りで探り、手触りの悪い布らしきものをひっつかむ。
幾つかあったそれを重ねて身に纏い、ようやく暗さに目も慣れてきた。 慣れてきてしまった。
「………え? きゃああぁああぁあっ!!!!!」
布の下にあったのは多分遺体。
多分と言ったのは、ほとんどがギリギリ人の形を保ったグロテスクな肉塊だったからだ。
………
………………
「……動かない、よね?」
多分大体15秒、結構グロテスクな遺体だと思ったんだけど、思ったより早く落ち着くことができた。
けれどこのグロテスクな遺体があるということは……と、そこまで考えて一度思考を止める。
その前にしないといけない事があった。
「天に召します天使様、どうかこの哀れな魂たちに安らかな眠りを……。」
………
………………
………………………
………………………………
………………………………………

祈りを終え、思考を再開する。
こんな有様の遺体があるという事は眠る前の出来事が現実であり、ここはまだ現世だという可能性があるのだ。
自分が平然としていることだけがおかしいけど、他の可能性も同じぐらいおかしいから候補にするぐらいは出来るだろう。
「となれば……うん、少し歩いてみようかな。」
さすがにもうあの布で身体を巻く気にはなれず、
元々自分に掛けられていた布一枚で恥ずかしいところだけどうにか隠しきって扉に向けて歩き出す。
「というか、私も死んだと思われてたのかな……? ますます今健康なのがよくわかんないけど。」
そんな独り言をつぶやき、扉を開ける。 久しぶりに見た蛍光灯の明かりは目も眩むほどに眩しかった。

「………? 誰か来る?」
扉の先は、白い壁のそれなりに長い通路だった。 現実的に例えるなら病院の通路だろうか?
非現実的に例えるなら謎の研究室とかが近いかもしれない。
そんな風に分析していると、どこからかぱたぱたと足音が聞こえてきた。

「……やだな。 せめて女の人でありますように。」
大方、さっきの叫び声を聞きつけてきたのだろう。
もしくは監視でもされていたのかもしれない。
土地勘もないまま逃げようと思うほどアグレッシブにはなれず、
何より走ると身体を隠す布がひらひらしてしまう。
そんな理由で身体を隠したまま立ち止まっていると、白衣を着た女性が近づいてきた。
ありがとう、天使様。 少しはマシだったよ。

『この区画に生存者は……という事は……』
「こんばんは。 で、いいのかな?」
『………。』
あいさつしたのに返してくれないのは少し寂しいけれど、見たところ警戒しているようだから仕方ない。
警戒されているのならなるべく刺激しないように……うん、自己紹介から始めよう。
「無々色 七葉。」
『……え?』
「国際貴女学院高等部一年。 乙女としてこの格好は辛いから、できれば服とか借りたいんだけど、お願いできませんか?」
『え、えぇ。 ……わかりました。 少し待っていてください。」
相変わらず警戒したままのようではあるけど一応落ち着いてくれたようで、
何やら私の名前を出しながら端末でどこかと連絡しているようだ。
注意して聞いていると、女性職員の応援を呼んでいたり服に関しても伝えてくれていた。 結構融通利くんだね。

その後は結構長い取り調べがあった。
私が落ち着いていることに驚きがあったようだけど、
手の施しようのない傷を負って一度は死亡確認まで取られた私が落ち着いていたらしいのだから無理もない。
それより重要なのは【神秘】についてだ。 私が追い求めていた【普通じゃない事】が存在していた事に心が躍る。
【神秘】と分類できる程度には知られているのが少し残念だけど、これから関われるのなら悪くはない。
さすがに秘匿されているようで大っぴらには出来ないし、それ関連の教育も受けることになり、
今後オカルト関連に不用意に近づかないように言われた気はするけど……まぁ、いいよね。
………
………………
………………………

これが私の、【神秘】に関わる事になったきっかけ。
猫"は"好奇心に殺されたけれど、猫"の"好奇心までは殺されていないのでした。 にゃぁ。