RECORD

Eno.610 幺幺山 美兎の記録

無題


「…………」



今日も遠くに手招く影が見える。
遠目からでもわかる。『それ』はパパとママの形をしていた。

裏世界に入り浸った後はそうだ。
湖の中心に立っていたりだとか、宙に浮いていたりだとか。
よくよく考えればそんな所には居ないだろう所に立って、此方に微笑んでいる。


先日、パパとママが目の前にいた、から。
手を繋いで一緒に帰ろうと告げ、誘われ向かった先。
敵性怪異の巣だったらしい。気が付けば床に伏していた。
友人が駆け付けねば死んでいたかもしれなかった。
刹那、パパとママは、解けるように消えた。


それから、ああして少し遠くに現れる。
誰かと一緒に居る時は、一人にさせるように。
一人で居る時は、手を伸ばして追い掛ければ死ぬような場所に。


あれが幻覚である事は重々理解している。
寧ろ己を殺そうとする怪異か何かかもしれない。
だから一歩を踏み出さぬようにじっと見つめるだけ。
それでも目で追ってしまうのは、心が弱いからだろうか?