RECORD

Eno.654 菅 さとりの記録

『大事なもの』

あの路地裏で起こった事から数週間が経とうとしている。
いつの間にか迷い込んでしまった終わりのない暗い暗い路地裏。
そこで出会った「なにか」に殺されそうになったこと。
今でもまだ、思い出すと体が震えてしまう。

またあんな思いをするのは嫌だけど、
大事なものを探すためにあの路地裏を探し回った。
新しく買うか作るかも考えたが、
あれは何にも代えられない大事なもの…。
「ゆり姉」からもらった大事なヘアゴムだから…。


両親と一緒にマンションにいた小学生の頃、隣には年上のお姉さんが一人暮らしをしていた。
そのお隣のお姉さんが「ゆり姉」だ。
確か当時20前半くらいだったと思う……年齢は特に気にしてなかったから覚えてない。

両親が共働きだったから、よく学校帰りにはゆり姉の部屋に遊びに行っていた。
ゆり姉も在宅仕事でずっと部屋にいるので、お隣のよしみとして面倒を見てもらっていたのだ。
といっても仕事の邪魔にならないよう静かにゲームをしていただけだけども
たまに気分転換にって一緒に遊んでくれた。
でもゲームはすっごく下手だったなぁ~。
下手すぎてつい「ざぁこ♥」って煽ってしまうほど
それでも笑って「さとちゃんが強いだけだよぉ~」なんて言ってたっけ……。

学校で男子にブスってバカにされて泣いてた時も
「さとちゃんはカワイイよ」
「世界一カワイイ!だからね?ほら笑って?」
って優しく髪をすいて結ってくれた。
何故かいつもツインテールだったけども
さともこの髪型が…ゆり姉が結ってくれてカワイイと言ってくれるこの髪型が好きだった。
それからさとは「ゆり姉のカワイイ」であろうと思った。

そんな日々が続いたある日、ゆり姉の急な転勤が決まった。
ゆり姉が遠くにいってしまう、もう会えないかも、と泣きそうになったさとに
「またきっと会おうね」って渡してくれたのがヘアゴムだった。

「それをつけて大きくなったカワイイさとちゃんにまた会えるのを楽しみにしてるね」

それがゆり姉との別れの言葉だった。


だからあのヘアゴムは、さとにとっては大事な大事なヘアゴム
ゆり姉のカワイイ」であるための大事なヘアゴムなんだ……。
絶対に探してみせる。

そして今日もあの路地裏を探しを歩き回るのだった。