RECORD

Eno.329 九条 陶椛の記録

incinerate

火球を受け、小型の怪奇が地に落ちる。
翠や蒼にゆらりと色を変える彼岸の火が
怪奇の身体を舐め尽くし、やがて消えた。

よくわからない単純な形のものは
それだけ低級であり、脅威も低い。
新人の練習台として用いられる。
それでも、人を害する力は備えている。

動物霊型、妖怪型、妖精型、付喪神型など
北摩には多様な怪奇群が発生している。

人型のものもいる。
幽霊、もしくは残留思念。
などと思われるが詳細は不明。
人間に対し、武器を向けるのは
心理的に躊躇われるが…

「まとめて、燃えろッッッ!!」

……やがて、気にしないようになる。
ゾンビを銃で撃つゲームのように。

慣れはあるが、人間だと思わなくなるのは
まともな反応を返さないからであろう。
生前の行動を繰り返すだけの風景でしかない。
撃たれても斬られても
悲鳴を上げるわけでもない。

繰り返し、繰り返し
現れる怪奇を滅ぼす。
妖怪も、付喪神も、人型も。
焼べて、灰に帰す。

アレは人間ではないので
滅ぼしてもいいもの
として感情が処理される。

鬼火の槍に貫かれて倒れた人影たちは
苦しむようにもがいていたが
やがて床に染み入るように消えた。

怪奇に対するものは
任務として真面目に鎮圧するもの。
巻き込まれて自衛のために抗するもの。
ゲームのように処理するものもいる。
暴力を楽しむものもいる。
ストレス解消とするものもいる。

折り合いをつけて、割り切る必要がある。

陶椛は、必要だからと割り切っていた。
この薄暗がりアザーサイドを歩いていくために。
怪奇討伐組織壱ノ蛇の一員として。
自分の身を守るために。
邪魔するものを排除するために───


⦅なんだ? 何を迷っておる?⦆

「は? べっつにー……」

⦅奪いたければ奪えばよいであろ?
 単純な話よ。その為の爪と翼よ!
 今のなれはそれが出来るのだからなァ⦆

「…っ、そんな事!」

たのしかろう。愉しんでおるのであろう?
 気持ちが良いものなぁ?
 滾るものなァ!
 汝のおかげでも愉しんでおるぞ。
 くく、く……⦆

「そんな、こと……」


───けれど、火を放つ昏い愉しみと
衝動を否定出来てもいなかった。
それは、確かに胸の内にある。

恐ろしいはずのものに火をつけて
屈服させて焼べることに
陶椛は密かに興奮していた。
して、しまっていた。