RECORD

Eno.38 穂叢 焔芽の記録

過ちと反省

大きな過ちがあれば懲りて反省もする。
あれほど迷惑な子どもだった自分が、こうも落ち着いたものだ。
これでも周りから見れば、やはり変な人間扱いを受けることはやむなしと思ってはいる、が。

やらかし案件1
幸運なことに、僕が最初に深く関わった神秘は朱魚だった。
見た目はその辺を泳いでいる金魚だが、何故だか気になって、ちょっかいを掛けたら向こうが反撃してきたんだったか。

致命的にはやらかしてなくても、元から視える・・・側だったり、要らないことまで問い詰めたりする性質から、僕はひとりだったから。
だから、最初に深く関わった神秘も朱魚で、最初の友人もまた朱魚だった。

幸運なことに。彼女は人間に対して、たいそう友好的だったから。

深淵を覗くということは、深淵が覗いてくるということだ。
認識するということは、即ちそれ・・に認識される可能性が高いということ。

即ち、本来ならば極めて愚かな行為だ。
ふっと目を合わせたら、齢1桁の子どもなんて知らずのうちにさらわれてしまう。
ちょっと気に入られたら、あとは向こうに連れていかれて、そのまま。

あちら・・・を見てはいけない。
あちら・・・に踏み入ってはいけない。
あちら・・・の側から、気付かれてはいけない。

本当に難儀な性分で。
僕は、あちら・・・彼ら・・を知りたがった。
そしたら随分と気に入られたようで、すぐにでも連れて行こうとしたんだったか。
認識すらもされないものは、そのうち消えてしまうことがある。
意思や思念によって成り立つ彼らは、維持できるほどの思念が無ければ消えるもの。
だから、きっと気に入られてしまったんだろう。

その結果を知らなかった僕は、招かれるままあちらへ行こうとして。
その境界を跨ぐ間際、朱魚が全てを薙ぎ払っていった。
それから踏み越える前に、強く引っ張られて。
怒ったような、泣いているような。
感情を荒げた姿は見たことが無かったし、少し驚いたっけな。

今でこそ本当に危なかったと思えるけれど、その時は事の重大さをそんなに理解していなくて。
こんなに怒ったように見えるから、たぶん何かあったのだろうというのと
それ以上に、当時は珍しい姿に対して、面白がっていた覚えがある。
申し訳ないことに、普段あんなに怒ったりしない朱魚が怒ることに、とても興味を持って。

たぶん怒らせてしまったんだろうとか、それに申し訳なく思う気持ちとか
それがあったにもかかわらず、好奇心の方が上回ってしまう難儀な性質。
好きで怒らせたいとかそういうわけじゃないのに、だ。

やらかし案件2
やはり自分のやらかしとして大きいのは、人の個人的な部分に平気で入り込みたがったところだろう。

結果は言わなくたっても分かる。
とにかく周りから嫌われて、誰もが僕から遠ざかっていった。

僕は愚かだったから、なんで離れていくのか分からなかった。
僕は君たちのことが好きだから、仲良くしたいのだ……と、本気で思っていた。
別に僕は、同じように根掘り葉掘り何もかもを聞かれ、明かされても何ひとつ嫌な顔をしなかっただろう。
だからこそ、僕のやり方があまりに最悪の方法だってことに気付けなかった。

純粋無垢な気持ちで、人として下の下な行為を平然とやっている。
自分のやっていることに気付くにはもう少しの時間が掛かったものだった。
ただそれでも、人から避けられるのを本気で苦しいとは思った。
苦しい、そう思えたから反省することが出来たのだとは思う。

世界には未知が溢れている。
外に目を向ければ、いくらでも知りたい謎が満ちている。
でも、だからと言って、強い興味を示した誰かの代替にはならない。

でも結局、苦しさこそ本気で覚えたが”そういうもの”と割り切ってしまった。
世界の形がそういうものだと認識して、それが自然なのだと。
それが自然な在り方なら、僕が疎まれているのは仕方のないことだからと。

こんなんだから、小中はずっとひとりだったものだ。
でも退屈はしなかった。周りを見ればいくらでも人を観察して時間が潰せるんだから。

やらかし案件3
結局のところ、僕の振る舞いが愚かなことだと気付いた原因はこれだろう。
痛みを、命の危険を以て初めて理解して、連鎖するように過去の過ちに気が付いた。

神秘による治療でなければ、まともな生活も送れなかっただろう大火傷
あまりに苦しかったという記憶だけあって、もはやどう苦しかったかも覚えてない。
もう二度とこんなことはしないと、いい加減に懲りたきっかけ。

発端については至極単純だ。
あちらに踏み入れかけた僕を見かねた朱魚が、僕に加護を付けた。
その加護が作用して、穂叢家に伝わる呪術の残滓が扱える程度の形を為し
これまた好奇心で、この呪術で何が出来るのかと色々なことを試したのが原因。

火之迦具土大神というのは、産まれる時に母親を火傷させ殺してしまった神だ。
そしてそれ故に父を怒らせてしまい、自らも直ちに切られて死んだという神話がある。
火の信仰を集め、形とし、その御名を借りた呪術が、どのような性質を持つかは想像に難くない。

幸いにも朱魚は、金魚であり、故に龍としての性質を持つ。
呪術によってもたらされる概念も、同様に龍という性質が齎す概念で相殺される。
少なくとも、後者が持つ防火の性質、概念が優勢である限り、僕はこの呪術によって火傷せずに済む。

つまりバランスを崩せば焼け死ぬ。
出力を上げ、朱魚の力量を上回る火を熾すと、僕は死に至る可能性がある。

要するに、愚かな僕はやらかしたわけで。
幸運にも死にはしなかったが、当然だが苦しみ悶えることになった。
苦しみ悶えただけで済んだし、後遺症も、痕すらも残らなかったのは本当に幸運だった。
いや、本当はただ守ってもらえただけなんだろうな。

この後、僕は今までの行動の全てを反省することになった。

結局のところ自分に齎される何かは、自分の行動に起因することなのだ。
行動をすれば、その結果が伴う。
自分が連れ去られかけたのも、自分が避けられたのも、大火傷したこともだ。
その全てが、結局のところは自分の起こした行動によって生じたこと。

行動の理由が純粋無垢だから、結果から逃れられるわけではない。
全ては結果、最後に何が引き起こされるのか。
だから心の内のことではなく、最終的に起きることに責任を持たなければならない。

純粋無垢を理由に結果から逃れられるなら、僕は避けられなかったし。
純粋な好奇心で扱った呪術は、自分を苦しめる結果には至らなかったはずだから。

気付いたのが、小学何年生だったか。
そう気付いても、周りからズレてるのもあって修正は困難で。
中学は僕のことを知ってる人らがいたから、これも間に合わなくて。
でもお陰でやっと、高校は知り合いのいない場所に行って、普通の学生として生活ができた。

こう振り返ると、自分は落ち着いたものだ。
慕ってくれる後輩がいて、信頼してくれる友人がいて、このことは真に嬉しいと思っている。

もちろん彼らのことを知りたいと、敢えて露悪的な言い方をすれば暴いて・・・みたいとは思う。
だが結果として損失の方が大きいし、やっぱり避けられたいわけではない。
何かを知ろうとして近付くなら、ちゃんと相手を待つ。

なんだかんだで、人との接し方はこれで間違ってないのだろう、たぶん。