RECORD

Eno.251 鳴宮優希の記録

【13.もしもきみが迷うなら】


 ちょっと、色々あった。
 僕のメタフィジカが進化して、
 旭先輩と訓練をしたこととか。
 僕には冷気の力があるらしい。

 棗が傷付いて半エンダー化して、
 みんなで殴って止めに行ったこととか。
 棗は良い方向に変わったと思う。
 良かったな……。

 そして。最近。

 特務心装部で、百華が何かを見て飛び出した。
 追い掛けていったらつかさがいて、
 つかさを酷い目に遭わせてる奴がいて。

 つかさは、僕の大切な友達だ。
 その場にいる人たちと、つかさを取り戻す為に戦って。

──だけど、無理だったね。


 傷を負ったところに、声がした。
 お母さまの声で、囁かれた。

『──逃げていいなんて、誰が教えたのかしら?』

『──悪い子には、罰を』


「…………おかあ、さ、ま」


 消えない恐怖が僕を苛んで。
 友達を助けに行くどころじゃ、なくなってしまったんだ。

  ◇

 どうやら気を失っていたらしい。
 目覚めた直後の僕は錯乱していた。
 お母さまの声が『罰を』なんて言ったから、
 裁ち鋏見つめて、自分を傷付けなきゃ、なんて。

 安全な空間にいることが怖かった。
 悪い子の僕は、不安の中にいることが当然であるべきなのに。
 自傷すれば、ちょっと楽になれると思ってた。
 自傷すれば、ここに居ても良いんだって。

「……おかあさまは、どこ」


『優希……ッ!
よく見ろ……ッ!』


 よく知るひとの、声がした。
 和泉先輩のお陰で、僕は現実に引き戻されて。

 現状把握。つかさが見つかったらしい。
 奏翔がいなくなった。
 特務心装部のみんなを信じる。
 傷を負った僕は、動けないから。

 先輩たちの力強さに励まされた。
 心の中の不安は完全には消えなかったけれど、
 かなり、楽になったんだ。
 信じてる、から。

 やがて奏翔が運び込まれて簀巻きになったけれど。
 疲れ切っていた僕に、反応は出来なかった。

  ◇

 きみに おいていかれる ゆめを みた。

 翌日。目覚めて、許可もらって奏翔の簀巻きを解いて。
 対面。さぁ、きみと話し合おう。

 だけどきみは、僕から目を逸らすばかり。
 僕の言葉に応えてくれない。いつものきみじゃない。
 踏み込んで、理由を聞いた。

──自分に価値がないだって? 笑わせないでよ。

──離さないって、言ったくせに。


「きみのお陰でわたしは救われた!
そしてわたしは、
きみが隣に居てくれなきゃ、幸せになれないの!」


 だから、言ってやった。
 大切なこと、気付かせてあげる。

 わたしの月は、きみしかいない。
 きみがきみだからこそ、わたしは好きになったし。
 きみが救ってくれたからこそ、今、ここに居られるのに。

 もしもきみが迷うなら、わたしがその道を照らすから。
 わたしがきみの一等星になるから。
 だから。だから。

 もう、そんなこと いわないで。

──きみじゃなきゃ、ダメなのに。


 泣きながら必死に伝えた。橘先輩も色々と言ってくれた。
 そしたらやっと分かってくれたみたいで。
 思いっきりぎゅーして、すれ違いはおしまいっ!

 宮瀬先輩のお説教タイム。妥当。
 話の流れで、今後、奏翔の訓練には僕が付き合うことになった。
 ひとりで行かないで。一緒にがんばろ。

 守られるだけのか弱いお姫様に、しないで。
 確かに、わたしは弱々しく見えるんだろうけどさ。
 わたしにもちゃんと、頼って欲しいんだ。

──わたしもきみを、支えたいから。


 やがて話し合いは終わり。
 眠くなった僕に、奏翔は寄り添ってくれた。
 精神攻撃受けて不安なんだよって話したら、
 しばらく一緒に寝てくれることになった。
 やったぁ。

 奏翔の隣はやっぱり、一番落ち着く場所。
 奏翔が大好き。大切な大切な、僕の月。
 隣にきみがいた。きみの腕に抱きしめられた。
 きみの温もりを感じて。きみにしがみついて。

 訪れた深い疲労の底に、わたしは沈み込んでいったのだ。