RECORD

Eno.458 烏丸_椿の記録

沙羅非-Ep.5.1:顔無し・壱

 百毫一本。
 仙木の枝。
 火鼠の皮。
 玲瓏の玉。
 燕の宝貝。

「……意外とあるっちゃね、こーいうの」



 てっきり彼女は、無理難題を言われたものだと思っていた。
 故に、依頼主である医者を目の前にしても、素直に感想を言わずにはいられなかった。

「こちらでは、ですね。名前の割には、探せば見つけられないことも無いものでして」

「じゃあなんで自分で取りに行かんと?」



 不躾な言い方。
 それに医者は怒るでもなく、嘲るわけでもなく。悪意無く笑って。

「医者が医者としての仕事に専念すると、色々便利なんですよ」

「まあ……私の場合、医者としての仕事に専念しすぎて、表にはいられなくなったのですが」



 過去を思い出しつつも、それを嫌うように首を振って、彼女から渡された品を一つずつ検める。

「……慣れていますね」

「何が?」


「この手の素材の採取に、です」

「……」



 箱から取り出され、状態を確認され、一つ一つ丁寧に梱包される品々。
 他愛もない雑談に、彼女は……まあ、いいかと。口を開く。

「元々そういうのもしちょったかい」

「はあ。以前はどのようなご職業で?」


「怪異狩り」

「……ほお」



 医者の手が一度止まる。
 当然の反応だろうと、彼女は続けて。

「なんでんかんでん斬るわけじゃなか、少なくともこっちじゃ」

「やり過ぎたら怒られますもんねえ」

「ん」



 人の世からは姿をくらました存在、神秘。それらはこの世界で、密に共生関係にある。
 "この世界に来る前"から、彼女はそれを知っていた。

「今回の症状も、それが原因で?」

「いや。うちは違うと思う」



 知っているがゆえに。
 彼女はこの症状が、神秘の暴走が。

 怪異を狩り続けたことによるものではないことを、直感で理解していた。

「……聞いても?」



 否定に、医者は眉を顰め。確認を取り。
 彼女はその確認に、間をおいてから……頷いて。

「……」


「こっちにいる誰かに、呪われた」



 推論。直感。
 根拠のない話だが……どこか確信の有るような語調。

 医者は品物の確認を済ませて、向き直る。

「そうなると。治療も場所を選ばなければなりませんね」

「ん。だから、可能なら。隠れ場所を作って、共有しておきたい」



「……ふふ」

「私は闇医者ですよ? 隠れ家の一つや二つ、用意がありますとも」



 不敵な笑み。心得の有るような調子。
 彼のその様子に、彼女は満足したように頬を緩めて。

「わかった。なら、その時はまた教えてね」

「かしこまりました。……そろそろ向かわれますか」



 返事も納品も済んだからと、彼女は席を立つ。
 彼もまた、自分の仕事に戻ろうと席を立ち、見送る。

「どうかくれぐれも、身の安全に気をつけて」

「ん」



 その前に。
 彼女は足を止め。

「……次の納品、少し間が空くと思う」

「おや。構いませんが……理由をお聞きしても?」



「多分、次の回収」
「うちは襲われる」