RECORD

Eno.1461 篠崎 駿の記録

前兆

北摩市のネオンが瞬く夜、俺は裏世界から表世界の武蔵野メディアパークの路地裏に戻った瞬間、異変に襲われた。

「う…ぐっ…!」 胸が締め付けられ、喉からうめき声しか出ない。裏世界で戦った植物の姿をした怪異の霧状の毒を吸い込んでいた。全身が震え、激しい咳が止まらない。膝をつき、地面に倒れ込み、のたうち回る。唇が青白くなり、呼吸が途切れがちになる。視界がぼやけ、冷や汗が額を伝う。「誰か…来てくれ…!」 立ち上がろうとするが力が入らず、崩れ落ちる。

偶然通りかかった知り合いの少年、月影誠が俺を見つけた。

「…はっ、え? 大丈夫ですか!?」

彼は慌てて駆け寄った。血は出ていないが、呼吸が微弱だ。駿は震える手で誠の肩を掴み、微かな声で呟く。

「救急車を…救急車を呼んでくれ…」

誠は即座にスマホを取り出し、119番に連絡。

「分かりました。今すぐ救急車を呼びます」 駿の意識が薄れる中、誠の声が断片的に響く。

「―― 駿さん!」

彼は俺の呼吸を確認し、俺の指がピクッと動くのを見て続ける。

俺がその後、苦しみが再び襲いかかり俺は悶えた。その様子を見た誠君は悲痛な叫び声をあげながら心臓マッサージを行ってくれた。

毒が体内で増殖する中、俺に宿る優の能力が無意識に反応した。優の能力は、宿主である駿を守るため、体内で変化を起こす。心肺機能を一時停止し、仮死状態に陥りさせることで体温を急激に下げ、毒の増殖を抑制を行った。その間にも彼の声が断片的に響く中、遠くから救急車のサイレンが聞こえた。

救急隊員が到着し、「間に合った!」と叫びながら駿を担架に乗せた後俺の意識は完全に闇に落ちていた。

北摩総合病院、救急治療室

ストレッチャーが救急治療室に滑り込むと、蛍光灯の白い光が眩しく照らし、消毒液の匂いが鼻をついた。

心電図モニターが不規則なビープ音を鳴らし、鋭い音が部屋に響く。

医師たちが慌ただしく動き、駿の唇は青白く、全身の震えは止まり、脈拍は検知不能だった。

「19歳、男性、心拍停止!」「毒素中毒の可能性、血液検査急いで!」

主任医師が叫ぶ。

「アドレナリン1mg、静注!」「除細動器、200ジュールで充電!」 看護師が応じ、除細動器の充電音が高まる音が緊迫感を増す。

「パドル準備、離れて!」 医師がパドルを手に取り、叫ぶ。

「ショック、1回目!」

除細動器が駿の胸に電流を走らせる。体が跳ね、モニターのビープ音が一瞬乱れる。

「脈なし! 心マ続行!」「アドレナリン追加、2分後に再ショック!」 医師が指示を飛ばす中、看護師が駿の胸を強く圧迫する。「1、2、3…」 心電図のピーッという単調な音が続く。

「充電完了!」「離れて!」「ショック、2回目!」 再び「バチッ!」と電流が走る。モニターが微弱なビープ音を拾う。

「心拍戻りました!」「バイタルチェック、酸素投与!」「ICUに搬送、急げ!」 医師の声が重なり、モニターの安定した「ピッ、ピッ」が響く。

意識の中の暗闇

駿の意識は冷たく重い暗闇に沈んだ。体が浮いているような感覚の中、駿は自分が死んだと悟った。

「…ここ、どこだ…? 俺、死んだのか…?」

胸に重い後悔が広がる。雪との約束――いつか保育園を訪れ、子供たちと笑い合う、彼女との約束を守れなかった。

「雪ちゃん、ごめん…約束、守れなかった…」

誠君の声が断片的に蘇る。彼の必死な叫びが浮かび、呟いた。

「誠君…君、俺が死んだら、自分のこと責めるだろ…? あんなに俺を助けようとしたのに…ごめんね…」

暗闇の中で、柔らかな光が揺らめいた。長い髪と穏やかな笑顔を持った女性が近づいてきた。

俺はその正体にただただ唖然とした表情で彼女の名を呟いた。

「優…?」

そう彼の前に現れたのは三年前に亡くした恋人である如月優だった。

彼女は静かに近づき、俺の事をそっと抱きしめた。

温かい腕の中で、優の声が響く。

「駿、まだ私の所に来ちゃダメ。まだあなたは生きてなきゃいけない」

彼女の瞳は優しく、しかし力強く俺を見つめる。

「誰かの笑顔のために、頑張るって約束、まだ、終わってないよ」

彼女の言葉に胸が熱くなる。山田先生の言葉――「誰かの笑顔のために頑張れ」という言葉が重なり、優の笑顔が光となって闇を押し返す。

「優…俺、まだ…」

彼女は微笑み、言った。

「駿、私の想いがあなたを護る。だから生きて、駿」

彼女がそういうと光が広がり、駿の意識が現実へと引き戻される。

俺がゆっくりと目を開けるとベッドの上で目を覚ました。

酸素マスク越しに、かすれた呼吸音が漏れ。左腕には点滴のチューブが繋がれていた。

心電図モニターの規則的な音が静かな部屋に響き、遠くで看護師の足音が聞こえる。

体は鉛のように重く、毒による震えの余韻が残る。

医師がベッドサイドに立ち、カルテを確認しながら告げた。

「篠崎さん、異常な毒素に侵されていた。どうやら血液中で増殖するタイプで、更に平均体温で活性化するものでした。しかし、心停止状態だった影響で体温が急低下し、毒の進行が抑えられたのが幸いでした」

同僚医師が加わる。

「血液検査の結果、毒素は未知の化合物。様々な解毒剤を投与し今は安静ですがいつ発作が起こるか分かりません、数週間の入院が必要でしょう」

医師たちは小声で話し合い、「経過観察を徹底した方がいいですかね…」「明日、専門医に相談だ」と呟きながら退出した。

俺は真っ白な天井を見つめ、右手をそっと動かした。リストバンドの下で、傷跡が微かに疼く。

病院の静寂の中、体がざわめいていた。どうやら彼女の能力が無意識に仮死状態を引き起こし、毒を抑えたようだ。

彼女の言葉が胸に響き。雪との約束と誠君の断片的な声を思い出した。

「…誠君にお礼、言えなかったな…」

そう小さく呟き、静かに涙を流した。頬を伝う一筋の涙が、枕に染みる。それは入院生活が始まる、静かな合図だった。