>>2331868
「親が自分のためを想ってしてくれた事は、大抵の物は嬉しいよ」
なんら迷う様子もなく返した答えは、実に一般論に近いものだった。
それさえしずねは言っていないのだ。普段の学校生活においては。
空を掻くように指を動かしてみる。光は捕まらない。
自然の木々がざわめく様は、まるで何かがそこにいるかのよう。
蛍達のかそけき光は、闇を見通すにはまだずうっと足りない。
「……」
「聖堂通りの話を、さっきしたね」
彼の至極当然の疑問に、しずねはまっすぐ答えることはなかった。
黒い視線がそちらへ向く。そこに灯かりが無いのは、きっと蛍から目を逸らしたから。
「ヒトが神様をそこにあらしめる理由として、恐怖に克つためということが挙げられると思う。
外敵や疫病、もしくは飢え。そういった物に立ち向かうとき、人間の心の支えとなる杖が必要だった。
──そういった連綿とした営みが、今もなお、あのように祈りの家として遺されている」
「夜遥くん」
「君は、これまで生きてきた人々の誰しもがそうしてきた足跡を、
どのようにすれば同じように辿ることができるのだと考える?」
彼女は問いかけている。不安という形の無い敵への抗い方を。
>>2333911
至って一般的な模範解答をそう、と軽い返事一つして聞いた。
言わないことなんて気にしないさ、それを他愛ない日常生活で
急に感謝する人の方が珍しいんだから、こうやって話して漸く分かること。
時折光っては消え、存在を主張する蛍を横目に
そんな主張よりも目の前にずっと存在している貴方の言葉に耳を傾ける。
視線はどうかな、きっちり向き合ってはいなかったかもね。
「……したな」
聖堂通りの話を。
「恐怖に勝つ為、かあ……俺がこの前習ったのとは違うけれど、それも学びの違いだしね」
問い掛けられて、さて、どんな表情を貴方に送ろうか。
少なくとも口角だけは上げていよう。
「同じように辿ることがどうすればできる、か」
「水底は同じように辿りたいんだ、人っていうのは……いや、生き物は種類は同じであれど
ただの一つだってちょっとした違いがあるのにさ」
スマホを少し弄る。全く同じ写真、なんてものは一つもない。
「逆に聞くよ、水底。何で同じように辿らなきゃいけない?」
「ああ、一応先に問いには答えはしないと失礼だよな……そうだな。
もし辿りたきゃ雛鳥が見たものを親として倣うようにすりゃいいんじゃねえか」
もし彼女が倣うことを辿ることを選ぶのだとしたら
それも一つの道だよ、否定はしないさ。それが彼女の道だからね。
少なくとも俺が選ぶ道とは違う、たったそれだけの話。

