RECORD

Eno.1718 田中・ジョン・D・アートマンの記録

間章

父が死んだ。

私が幾つかの国境を跨いでいる内に故郷で死んだらしい。
当然だが今から帰っても葬儀には間に合わないし、土台無茶な話で諦めて五年くらいしたら帰る当てがあるし、そこで。ということに

奔放な父だった。あまり顔を見た覚えがないが、まぁ、悪い親ではなかった
私よりずっと多くの国や都市や町や村や家を巡って、私よりうんと多くの人間と触れ合って
たまに旅先で巡り合っては酒を飲み交わしてそんな体験の話を聞かせてくれた

追い剥ぎに衣服も何も全部取られても巡礼を続けようという精神は流石にどうかとも思ったが

「くれてやったのさ。施しだよ」

そうだろうか
本人がそう言うならそれでいいか
私の旅の参考にはしたくないと思ったが、父はこういう話の時も元気盛りの子供でも見るような顔で話すもので

悪くはないな、と思った

風のような人生だった

私と父の人生が交差した時間は本当に短かった。父亡き後に続く私の人生の摩耗の中でその存在は少しずつ薄れていった。

声を忘れ、父と何をしたかを忘れ、顔を忘れ、仕草を忘れて
風のように過ぎ去っていく、消えていく

しかし、父が何と話していたかの内容は覚えている。

父が好きだった酒を覚えてる、煙草の匂いを覚えている


それでいい