RECORD

Eno.372 橘ネムの記録

【追想】哭く鋼2

帰還命令が出された。
休戦はまだだ。だが、急いで帰れと命じられた。
何故…という疑念は、帰ればすぐにわかった。


敵のミサイル攻撃が、故郷を焼いていた。
戻った先にあったのはひどい瓦礫と、焼けこげた死体の山。
生き残った友人の顔は見るも無残になって、目の前で息を引き取った。
妻と娘は――――遺体を見ることすらかなわなかった。
俺が来る直前まで、焼けながら、苦しんで死んだと聞かされた。

全て失った。何もかも。
こうならないようにと戦って、擦り切れた結果得たのは地獄のみ。
残された自分にあるのは、深い絶望。

もはや立ち上がる気も失せた。
終わらせたい。これ以上を失いたくはない。否、これ以上などないのかもしれないが。
それでもただの兵士にすぎない自分に、そんな力がないことは十分に理解していた。

もう駄目だ。
自分に、もっと力があれば。
妻も娘も死ぬことはなかったのではないか。
そんな幻想じみた考えばかりが巡って―――




男に出会ったのはそんな時だった。
止める力を与えられるかもしれない。
そんな甘言に、縋るしか自分はできなかった。
戦いを終わらせる事ができるのなら。
この地獄から抜け出せるなら。
その為なら―――――

『悪魔になる気はないかな。
 君の同朋の魂と、共に』

その言葉に、乗る道を選んだ。
この戦いを、否、全ての戦いを。
終わらせる為に――――