RECORD
Eno.225 葛山の記録

思い出す。記憶の奥底にしまい込んでいた、取るに足りない出来事。
︙
自分の通っていた小学校に、とある噂話があった。
ある怪談があって、その内容を聞くと消えてしまうというものだ。
まあ所謂『牛の首』とか『鮫島事件』とかと似たような。
怪談の題名は、『ブルーベリージャムの消失』。
それと。他のクラスの同級生で、焼野 歩という少女が居た。
彼女とは図書委員会での繋がりがあって、時折図書室で活動を共にしていた。
ある日、彼女が突如学校に来なくなるという出来事があった。
また、自分は当時、クラスの友達と探偵ごっこのグループを組んで遊んでいた。
僕らは焼野がなぜ学校に来なくなったかの謎を追い始めたが、理由を突き止めるには至らなかった。
色々あって途中でグループが空中分解してしまった所為だ。
︙
ただ、僕だけが焼野が残した手紙を見つけてしまった。
それは他の誰にも見せていない。
その手紙は『ブルーベリージャムの消失』の内容が書かれたものだった。
それっきり、僕はその件に触れるのをやめた。
焼野の行方は、分からないままだ。
︙
◇ ◇ ◇
――僕は、そこで一旦話を区切った。
「なるほど。暗所に例の怪奇が発生し始めたのは、その手紙を読んでからなんですね?」
いつものプレハブ小屋で、水崎さんに報告をしている。
パソコンの入力音が、静かに連続していた。
「そうなります。あ、内容も話した方が良いですか」
「……あー、内容は一旦保留で。追々伺うかもしれませんが」
だろうな、と思った。
こういうタイプの怪談は多分、迂闊に聞けば怪奇の思う壺だもんな。
「それからは、何かされましたか?」
「いえ。僕はそれっきり、その件は調べてませんし話してません」
首を横に振る。
安心安全の完全放置である。
「そうですか、分かりました。お話ししてくださってありがとうございます」
「……ああ、それと。もうひとつ別件で。自分の神秘、分かったかもしれません」
「おや。お聞かせください」
「例の紙切れ。
あれに触れている時、フラグメントの元になった怪奇の力を部分的に使う事が出来るみたいです。
あと、ある程度は加工しても問題なさそうです。例えば栞にするとか。
千切ったり濡らしたりしてボロボロにしたら流石に効果無くなりましたが」
検証結果を伝える。
「成程。破壊された神秘を再利用する力……という所でしょうか」
分かり辛過ぎる。
まず怪奇を倒してフラグメントを手に入れないと話が始まらない神秘。
いつからあったのかは知らないけれど、下手したら一生気付かないままだったかもしれない。
「神秘管理局に報告する名称は、どんなものをお考えですか?」
「名称? 名前付けるんですかこれ。
えーと……急に言われても思い付かないんですが」
「……あら。では、破壊された神秘から紙屑を作り出し、再利用する神秘――。
《神屑拾い》等は如何でしょうか」
アンリアルリサイクル。
ゴミを新しい製品の原料として再利用するリサイクル方法を、マテリアルリサイクルだとか言ったっけ。
それの神秘版ってとこか。
然しだ。
「ちょ……ちょっと格好良過ぎやしませんか?」
人に言うには少々、いやかなり恥ずかしいんですけど。
「お気に召しませんでしたか。
まあ、無理に名前を付ける必要もありませんが」
水崎さんは少ししょんぼりした顔をした。そんな顔をされたら断り辛いだろ。
「……え、いや、別に何でもいいですけど」
水崎さんは満足げな顔をした。何なんだよ。
「取り敢えず、神秘の件は解決したとして……暗闇の怪奇、改め『ブルーベリージャムの消失』については駆除する必要が。
先日の報告の通りなら明らかに敵性怪奇ですし、このまま放置しておくのは危険です」
「これ、内容を聞かないと認識出来ないタイプの怪奇ですよね」
「ええ、確かに……こちらでは観測出来ませんでしたから。
担当者に内容をお話頂く必要は、あるかと」
「だったら。一応、消滅させられる心当たりはあって」
暗に、自分で対処したいと言う。
カレントコーポレーションのプロの人達に任せたって良かったのかもしれない。
それなのに、そう言ったのは。
自分は後悔しているんだろうか。やっぱり。
「……」
水崎さんは少し考え込む。
「そうですね。迂闊に広めるよりは神秘氾濫リスクが低いですから……。
勝てる算段があるのなら、葛山さん自身に対応をお願いしましょうか。
但し、こちらの指示を良く聞いて動いてください。
難しいと思ったら無理しないでください。絶対ですよ」
「分かりました」
頷く。
あーあ。もう戻れなくなってしまった。
自分はもう裏世界という未知の領域へ踏み込んでしまったから。
さあ、片付けに行こう。
あの時放ったらかしにしたゴミ屑を。

『屑拾い』/Ep.0 了 ≫Ep.1へ続く
神屑拾い

思い出す。記憶の奥底にしまい込んでいた、取るに足りない出来事。
武器を振るう。ごく一般的なただの殴打。
空飛ぶパズルを砕く。
そこには神秘の欠片だけが遺される。
自分の通っていた小学校に、とある噂話があった。
ある怪談があって、その内容を聞くと消えてしまうというものだ。
まあ所謂『牛の首』とか『鮫島事件』とかと似たような。
怪談の題名は、『ブルーベリージャムの消失』。
それと。他のクラスの同級生で、焼野 歩という少女が居た。
彼女とは図書委員会での繋がりがあって、時折図書室で活動を共にしていた。
ある日、彼女が突如学校に来なくなるという出来事があった。
また、自分は当時、クラスの友達と探偵ごっこのグループを組んで遊んでいた。
僕らは焼野がなぜ学校に来なくなったかの謎を追い始めたが、理由を突き止めるには至らなかった。
色々あって途中でグループが空中分解してしまった所為だ。
さあ、実証してみよう。
使い方は解っている。後は具現化するだけ。
ただ、僕だけが焼野が残した手紙を見つけてしまった。
それは他の誰にも見せていない。
その手紙は『ブルーベリージャムの消失』の内容が書かれたものだった。
それっきり、僕はその件に触れるのをやめた。
焼野の行方は、分からないままだ。
未知の物に対する恐れ。そして、そこへ踏み込む緊張感に。真実の断片を拾う行為に。
酷く高揚する。
「ふは」
久々に声を上げて笑った。
◇ ◇ ◇
――僕は、そこで一旦話を区切った。
「なるほど。暗所に例の怪奇が発生し始めたのは、その手紙を読んでからなんですね?」
いつものプレハブ小屋で、水崎さんに報告をしている。
パソコンの入力音が、静かに連続していた。
「そうなります。あ、内容も話した方が良いですか」
「……あー、内容は一旦保留で。追々伺うかもしれませんが」
だろうな、と思った。
こういうタイプの怪談は多分、迂闊に聞けば怪奇の思う壺だもんな。
「それからは、何かされましたか?」
「いえ。僕はそれっきり、その件は調べてませんし話してません」
首を横に振る。
安心安全の完全放置である。
「そうですか、分かりました。お話ししてくださってありがとうございます」
「……ああ、それと。もうひとつ別件で。自分の神秘、分かったかもしれません」
「おや。お聞かせください」
「例の紙切れ。
あれに触れている時、フラグメントの元になった怪奇の力を部分的に使う事が出来るみたいです。
あと、ある程度は加工しても問題なさそうです。例えば栞にするとか。
千切ったり濡らしたりしてボロボロにしたら流石に効果無くなりましたが」
検証結果を伝える。
「成程。破壊された神秘を再利用する力……という所でしょうか」
分かり辛過ぎる。
まず怪奇を倒してフラグメントを手に入れないと話が始まらない神秘。
いつからあったのかは知らないけれど、下手したら一生気付かないままだったかもしれない。
「神秘管理局に報告する名称は、どんなものをお考えですか?」
「名称? 名前付けるんですかこれ。
えーと……急に言われても思い付かないんですが」
「……あら。では、破壊された神秘から紙屑を作り出し、再利用する神秘――。
《神屑拾い》等は如何でしょうか」
アンリアルリサイクル。
ゴミを新しい製品の原料として再利用するリサイクル方法を、マテリアルリサイクルだとか言ったっけ。
それの神秘版ってとこか。
然しだ。
「ちょ……ちょっと格好良過ぎやしませんか?」
人に言うには少々、いやかなり恥ずかしいんですけど。
「お気に召しませんでしたか。
まあ、無理に名前を付ける必要もありませんが」
水崎さんは少ししょんぼりした顔をした。そんな顔をされたら断り辛いだろ。
「……え、いや、別に何でもいいですけど」
水崎さんは満足げな顔をした。何なんだよ。
「取り敢えず、神秘の件は解決したとして……暗闇の怪奇、改め『ブルーベリージャムの消失』については駆除する必要が。
先日の報告の通りなら明らかに敵性怪奇ですし、このまま放置しておくのは危険です」
「これ、内容を聞かないと認識出来ないタイプの怪奇ですよね」
「ええ、確かに……こちらでは観測出来ませんでしたから。
担当者に内容をお話頂く必要は、あるかと」
「だったら。一応、消滅させられる心当たりはあって」
暗に、自分で対処したいと言う。
カレントコーポレーションのプロの人達に任せたって良かったのかもしれない。
それなのに、そう言ったのは。
自分は後悔しているんだろうか。やっぱり。
「……」
水崎さんは少し考え込む。
「そうですね。迂闊に広めるよりは神秘氾濫リスクが低いですから……。
勝てる算段があるのなら、葛山さん自身に対応をお願いしましょうか。
但し、こちらの指示を良く聞いて動いてください。
難しいと思ったら無理しないでください。絶対ですよ」
「分かりました」
頷く。
あーあ。もう戻れなくなってしまった。
自分はもう裏世界という未知の領域へ踏み込んでしまったから。
さあ、片付けに行こう。
あの時放ったらかしにしたゴミ屑を。

《神屑拾い》
神秘の欠片であるフラグメントから『神屑』を生成する神秘。
神屑は紙片のような物質であり、これに触れる事で元になった怪奇の力の一部を発動できる。
他者へ譲渡する事も可能。一般的な紙と同じ様に劣化し、ある程度まで原型を失うと効力も消える。
それはつまり、意味の無くなったものに再び意味を与えるという事。
『屑拾い』/Ep.0 了 ≫Ep.1へ続く







