RECORD

Eno.706 如月 静空の記録

2_再会

 久しぶりに聞こえた声の主は黒江くんだった
 高校生の頃、初めて異世界へ来た時、初めて仲良くなった男の子

 でも彼は、初めて会った頃よりも背がずっと高くて
 昔私が作ってた機械仕掛けの傘で戦っていた


「黒江くん、久しぶり──」


 そう言いかけると、彼は私を睨み傘を向けて来た

「って、どうしたの!? 私! 静空だよ!?」


「うるさいうるさいうるさい! お前なんかに静空を真似されてたまるか!!」


 何度も攻撃されそうになるが、隙だらけで避け易い
 と言うか、彼は私の知ってる黒江くんで間違いなさそう!?

 知らない世界だと思ってたけど、知ってる人が一人でもいるのは嬉しかった
 と言う事は、私の以前来た世界? 随分前の記憶だからズレがあるのかも知れない

 ならば、誤解を解かなきゃいけない
 彼に「元の世界へ帰る」と伝えずにいなくなってしまったのは事実なんだから

「待って待って! 手紙残して勝手にいなくなった事そんなに怒ってる!?
 それとも、スマホ水没して連絡取れなかったの根に持ってる!?」


 私だってその日、好きで別の世界へ迷い込んだ訳ではない
 ちょっと海行って、戻ってから黒江くんに別れを告げる予定だったんだ
 ……その後、波に攫われたらまた別の世界へ迷い込んだけど

「静空はもういないんだ! これ以上静空をバカにするなら──」


 黒江くんは聞く耳を持たずに私に攻撃を続ける
 と言うか、もういないって!? まさか……

「……適当吹き込まれたな?」


 ため息を吐き、私は黒曜石の振り子を取り出した

「前と全然服とか違うだろうが! わかれよ!!」


 黒江くんがひるんでる間に彼の握る傘を奪い、押し倒す
 どこまでも黒く深い瞳と、虚ろな瞳
 私の髪飾りと似た材質のハートの髪飾り

 服や細かい所は違うけど、確かに彼はかつての友人、黒江クロエ 小春コハルくんだった

「ほんとに、静空なの……? 俺の夢でもなくて、ほんとに?」


 一体何を吹き込まれたんだ。ってくらい、弱っているな

「はぁ……やっと見てくれた」


 呆れと、安堵と、心配と
 そんな思いが、彼を見るうちに増して行くのを感じた

 異なる世界線が交わる事で生まれたのが私なのだから
 私はどこの世界でもただ一人で、私以外の私なんて知り得ない

 だから、彼を安心させたくて、ついこう言ってしまった

「大丈夫。私はここに生きている。
 夢なんかじゃなく、ただ一人の"如月キサラギ 静空シズク"として」




 しかし、これはきっと、私があの人・・・に最も言ってもらいたかった事で
 最も聞きたくなかった台詞なのだろう