RECORD

Eno.1015 灰原 よたの記録

天体観測_18


「灰原様」

「はい」



「やるなとは言いませんが、武器の私的利用には限界があります。
 今回は武装目的でなく、道具本来の用途のみに限られ、
 申請の通りに返却されましたが……」

「わ、わかっています、すみません、
 本当にごめんなさい…………」

「はい。ご学友と天体観測に行かれたのでしょう?
 どうか私にも感想を聞かせていただけますでしょうか」

「あ、ええと、」




「観測と言っても今回は初めて望遠鏡を使うという方も多かったので、
 操作の説明をして、目的の星を観るというよりは
 各自で自由に触って観たものを各々の視野で描くという風にしました」

「描き方や内容も指定しなかったのですが、
 これはどちらかというと性格診断のような流れになってしまったな。
 相手の視界を見たかったのですが少しノイズが……
 すみません、脱線しました」

「結果として星ひとつを描いた人、近くにあるいくつかを描いた人、
 空の風景を描いた人、星々を星座に見立てた人……
 写実的なものから抽象的なものまで見られました、
 視界は共有できないと言うけれど、本当にみんな違くって。
 ああでも、確か描けなかったって人もいたな、あれは少し惜しかった……」

「星が視界に映らないから描けない、というのは聞きましたが、
 星が見えているのに描けないってのはけっこう気になったな。
 事情があるのでしょうし、あまり深堀するのもいけないかと
 そっとしておいたのですが、見えて、描く手段があるのなら、描けるはずですし」



「……なるほど。
 私は天体観測に詳しくないのですが、充実した時間を過ごされたのですね。

 そんな灰原様にひとつ提案があるのですが……

「転会さん
 今僕の話題をダシにしませんでしたか?
 なあ 転会さん」





















「ではまずこちらをご覧ください」

「これは何ですか?」

「見ての通りですが……」



「……以前、表裏一体計画……
 裏世界の治安維持や環境保全についての話をいたしましたね。
 その一環として、弊社や他機関の所属者の中でも、
 裏世界に住居を置こうという働きをする表世界の方がおります」

「最近、灰原様は裏世界での活動が著しく活発になっており、
 且つ裏市庁なども活用されているようなので……
 これを機に引っ越しをご検討されてはいかが?という」


「今なら社割ついていますから……」

「そこかあ」





「……急に言われてもな。
 定期ありますし、一応扶養者の方に工面してもらっている形ですし……
 僕の一存では決められないものですから」

「それに、裏世界に引っ越しって言っても……
 けっこう表でも活動しますよ、僕は。
 あまり利点を感じられないというか……えっと、その、
 悪く言いたいわけではないのですが……」


「仰りたいことはわかります。
 ひとつずつ説明しましょうか」









利便性。
曰く、カレントコーポレーション支社や子会社従属の物件を利用して、そこに『門』を繋げるらしい。
人造神秘の話もそうだけど、こうした技術を使いこなせるのは、
想定にあったうえでも少し驚いてしまう。
表の住居を張りぼてに、裏を本拠点として扱う……という認識になった。



持続性。
物件というものには、耐用年数やらさまざまな期限があるらしい。
らしい、というのは、自分がそれを体感したことがないから、説明でしか汲み取れないのだ。
そもそも地元にある家は百年以上壊れていないし……。
ただ、裏世界で使う住居も、『空間』を間借りする形になるから、
それ自体に干渉が加わらない限りはほぼ永久に使える、という話を聞いた。

……そんな上手く行くかな。とは思ったけど。



機密性。
裏世界と表世界とを行き来する上で一番大事になるところだ。
普段、人気がなく見られる可能性の低い場所を出入りに使っているけれど、
それでも民間人が目撃するという事例は想像がつくし、現に証拠隠滅が行われることもあるようだ。
個人空間の中であれば出入りを目撃される心配はないし、
『門』の出現先を調整可能なことを鑑みても、以前より考慮すべき部分が減る……
という、これはそこそこありがたい話。









「まあ……灰原様はそもそも北摩市に来られて数ヶ月とのことでしたし、
 無理にでもという相談ではありません。長い目で見て考えていただければ」

「んー……んー、まあ……
 一応、考えては…………」

「ああそうだ、もう一つ利点として。伝え忘れていました」

























「え?」





















コール音。
毎度のことながら、この瞬間、“この相手”にかける時は、少し、緊張する。














「……あ」


「もしもし……僕です、よたです。
 お久しぶりです、灰原、さん。」