RECORD
6/27~6/29
どうやら俺の狩猟本能は美しき死こそ望むけれど、人の不幸を望むわけではないらしい。
血の香に興奮し、怪我や病気で弱った人を見ると加害したくなる。
じわりじわりと死に近づいていく生に美しさを見出す。
そんなイカれた趣味と嗜好を持ち合わせていて、ひたむきに隠している。
裏世界では神秘と密接になっているそれが発露するせいで、クラスメイトの多くにはすでにバレているのだけれども。
だから人のトラウマに触れて、苦しむ人を見たときは心動かないらしい。
直接的な死が関与しなければ、心は凪いだまま。
……それもそれで、嫌な話だけれども。
感受性が低く、共感ができない。不幸なニュースも淡々と聞いている。
白状な人間だなあ、と。自分でいつも自嘲している。
アヤメと付き合うことになって、いくつか自分に取り決めたルールがある。
今日のデートは穏やかに済んだけれど、自分の抱く欲求はいつでも過激なものだ。
心の奥底で獲物だと見定めて、いつか傷つけてしまうかもしれない日を恐れて。
殺したい。大切にしたい。二律背反する欲も、今はずっとずっと後者が強い。
無視できている。いつものように、心の奥底で首を擡げていて。
そのことはもう話している。襲うつもりはないけれど抱いていると。
話しておいてよかったと思う。
隠して秘めたままだったら、今頃ずっと自責していただろうから。
人として正しくない部分を認めてくれて、その上で傍に居てくれる。
自分が苦しむだけだと遠ざけた特別な縁が、こんなにも暖かくて愛おしくて。
何かと諦めてきた自分に、色んなものを与えてくれる。
そんな日々を、大切にしたいと思う。
ルールの一つ。
俺自身、向ける感情が強く過激的なものもある。
恐らくだけど、いつか俺が求めすぎて傷つけてしまうことがあると睨んでいる。
恋愛にトラウマはないらしい。
けれど、恋愛に付随する『行為』にトラウマはないのだろうか。
自分の中で、彼女は恋愛感情を誰にも向けないだろうな、という予想があった。
境遇を考えて、自然とその予想に到達していて。
告白された後で、その予想が違っていたことには気が付いたけれど。
あくまで『感情』の話であって、『行為』の話ではない。
だから。
自分と約束していたから。
>>2612061
「まあそれはそうやけんど……」
なるほどなあ、なんて泣きながら納得したのも束の間。
背中をさすろうとしてくれた手が、自分に触れた時。
ギョッとした顔をして、ビクッと体が跳ねて。自分を守るかのように体を丸めて後ずさりました。
肩で息をして、見開いた目で、真っ直ぐあなたを見つめて……また、涙が溢れて
「こ……っ! ち、ちゃうん! 誠くんは悪ぅないけん! アタシが、アタシがいかんの! アタ……シが……」
先程とは全く別物の涙は、崩れ落ちる彼女とは裏腹に、なかなか止まってくれなくて。
耳をすませば、『なんで』『なんでこんなん……』と、僅かに聞こえるでしょう。
>>2612800
「あ――」
傷つけるつもりなどなかった。
ただ落ち着いてほしかっただけで、
自分がしてもらって嬉しかったことをしようとしただけで。
傷つけてしまったことによる自責の、その先に。
一つ、理解したことがあった。
(……そっか)
(怯えたくて怯えてるわけじゃないんだよな)
思い通りにいかないことの、歯がゆさ。
よく知っている感覚だ。
→
>>2612800
「すまんな、驚かせてもうた」
手を引っ込めて、安心させるよう穏やかに微笑む。
過剰には謝罪しない。お互いに悪くないのだから。
自責を飲み込んで、穏やかなブラウンの瞳であなたを見ていた。
「ほな、何もせんとここに居るな。
ゆっくり、深呼吸して。息吸うて、吐いて」
「上手いことでけへんかったら、時間かかってええからな」
視線を移動させて、湖面の方へ。
こないだまで新月だったから、水面と空の境目も分かりづらい。
「大丈夫。どこにも行かへんし、近よりもせぇへん。
そんで落ち着いたらまた隣に座りぃな」
不意に傷つけてしまったときに。
優しく在れなかったと自身を責める前に、口にしようとしている謝罪が正しいものかどうか考えろ。
その上で、本人が望まない謝罪になり得るのならば、不用意に自責せず謝りもするな。
勿論、己の非は正しく謝る。
けれど、『抱きたくない感情に振り回される』辛さは、俺自身がよく知っているから。

「一番の悪は、トラウマを刻み込んだ加害者。
望まない謝罪は追い詰めさせるだけ。
自責して誰もが不幸になるのなら、それは優しさじゃない」
きっとあの日も、アヤメと付き合う前だったら自責しまくって傷を抉り合っていたんだろうな。
何も残さずに居なくなるのではなく、何かを残してできる限り居ることを選んだから。
少しずつ。一歩ずつ。歩いていこうと思う。


