RECORD

Eno.63 十束静海の記録

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悪夢の中の俺はいつも若い。というよりまだガキの頃の姿だ。
血を吐くたび、確かに何かを取り戻している気がする。
“彼奴”の声が泣いて、”誰か”の体が祈って、
目覚めたあともしばらく、他人の感情が皮膚に残る。

今でも尚死はあまりにも近くて、
だから逆に、毎朝生きているこの感じが異常なんだ。
“あの夜、何故彼奴のそばに居てやれなかったんだ”
そう思う瞬間が、俺の日常に平然と混ざってる。
….今年もそろそろ、その時期がやってくるな。暫く店は瑚白かあの双子に任せるか。


虫も獣も寝静まり、月と星だけが宴に興じる夜。北摩郊外にある邸宅のとある一室の前で2人の男が揃って一つの部屋の中を扉の外から覗き込み、眉根を寄せては溜め息を吐き出した。

※※

「課長はまた、魘されているようですが…」


「…無理もねえよ、もう少しすれば彼奴にとってしんどい時期が暫く続く。…すまんが、静海のこと支えてやってくれ。当面は寝付けないだろうから店にも顔を出させるな」


「…わかりました。曲がりなりにも課長補佐ですから出来る限りの事はします…がこの様子だと恵佳さんの方も容体は思わしくないのでは」


「彼奴のことだからなあ…瑚白の言う通り寝付けないどころか気に病んで政務すら碌に取り組めねえだろう。俺は暫く向こうに戻るわ、彼奴支えてやらんとどこで崩れるかわからんしな…んで、16年前何があったか…だっけか、聞きたいのは」


「ええ、師匠さえよろしければ教えてくれませんか。毎年課長に聞いても副課長に聞いても濁されるばかりで」


「そりゃまあ特にあの2人は言いたがらないだろうな。何せ自分達はその場に居なかっただけで死を免れて残りの幼馴染連中は全員死んだんだから。恵佳と旦那様もこの事は話したがらないが…まあいいか、緘口令敷かれてる訳でもなし、後で俺の部屋に来な。当時何があったのかちゃんと話してやるから」


「感謝します、師匠」