RECORD

Eno.559 赫岬理恵子/理恵奈/理恵美の記録

赤い靴の群れ、白昼に歩む

報告者:アザーコロニスト北部担当 神代悠一

私はアザーコロニストに所属し、主に裏世界から表世界への移行を望む存在の援助と監視を任務としている。いくつかの異質な存在と接してきたが、それでも今回の『リエコ』という群体には少々不安を感じていた。

『リエコ』。
数ヶ月前、アザーコロニスト北部の境界で確認された少女型の群体。白いワンピース、赤い靴、茶髪の三つ編み、そして特徴的な赤い目。彼女たちは自身を「リエコ」と称し、敵意を示すことなく、ただ表世界への憧れを口にしている。

「私、あの世界に行きたいの。そこが私のいるべき場所だと思うの。」



その他特筆すべき能力については現在も調査中である。

次の書類は『リエコ』への契約内容を記したものだ。表世界での生活補助と引き換えに、表世界に存在する異常現象や神秘の調査を行ってもらう。この契約自体は特別なものではなく、裏世界の住民に対する一連の大規模調査の一環として、多くに渡されている。

私はリエコに対し、群体としてではなく、赫岬理恵子(高校生)、赫岬理恵奈(大学生)、赫岬李恵美(小学生)という3つの個体として暮らすように強く念を押した。
「君たちはこれから一つの群体ではなく、三姉妹という形で表世界に住むことになる。それぞれの役割と立場を間違えないように気をつけてくれ。特に記憶を混同させてはいけない。各自が独立しているふりをすることが重要だ」
そして用意された身分証を一人ひとりに手渡す。

「あなたが案内してくれるのね」


1番大きな個体、理恵奈が静かに、しかしどこか浮世離れした口調で呟いた。
残りの2個体──理恵子と李恵美も無言で同時に頷いた。その動作は完全に揃っており、私は一瞬背筋が寒くなるのを感じた。

私たちは区のデパートで買い物を始めた。3人の『リエコ』はまるで影のように私の後ろを静かについてきた。
「理恵子、君にはこの白いセーラー服だ。高校生らしく振る舞うように」

「ええ、分かったわ」


理恵子と名付けた個体は制服を受け取り、じっと見つめていた。
小学生の李恵美は迷いなく赤いランドセルを指差した。
「李恵美、気に入ったか?」

「ええ。赤色が好きなの」


彼女の声は年齢に不釣り合いなほど落ち着いていた。
大学生の理恵奈には学習や調査報告に使うノートパソコンを渡した。
「理恵奈、これで大学の課題も調査報告も問題なくできるだろう」

「ありがとう。役に立つわ」


その口調には親しみというよりも無機質な響きがあり、私は再び奇妙な違和感を抱いた。

文房具や生活必需品を選ぶ時、リエコたちは店内で何が必要なのか分からない様子で立ち尽くしていた。
「どうした、必要なものが分からないのか?」

「何を選べばいいのか、分からないの」


理恵子が小さく答えた。
私は少し微笑んで鉛筆やノート、日用品を選びながらリエコたちに手渡した。

「ありがとう」


李恵美が小さな声で礼を言った。その時だけは年相応の無邪気さが垣間見え、わずかに私の緊張を解いた。

次に住居へ向かう道すがら、学生に義務付けられているスマート端末の説明を始めた。
「WaveDは分散型のSNSだ。投稿は端末を介して直接つながったユーザー間で拡散される。だから投稿は慎重に行うように。surfはメッセージアプリだ。こちらはプライベートなやり取りに使う。友人や私との連絡は基本的にsurfを使ってくれ」
『リエコ』の6つの赤い目は興味深そうに画面を追っていた。
「使い方、すぐに覚えられそうか?」

「問題ないわ。簡単に理解できるようになっているのね」


理恵奈が答えた。

辿り着いた住居は古い一軒家だった。木造で少し軋む廊下、窓から差し込む柔らかな日差し、庭には手入れの行き届いていない花壇がある。
「ここが君たちの家だ。設定では両親は既に亡くなっていて、君たちは三姉妹だけで暮らしていることになっている。姉妹という設定を忘れないように振る舞ってくれ」

理恵子が静かに呟いた。

「家族とは、同じ家に暮らす仲間なのね。でも違う人」


その言葉はどこか寂しげで、私は少しだけ彼女たち、いや彼女が不憫に思えた。

「この世界、現代日本では、人々は他人との違いを敏感に察する傾向がある。目立つ行動は控え、常識や礼儀を大切にすることが求められる。君たちが群体であることや神秘の存在であることを悟られてはいけない。十分に注意してくれ」
『リエコ』は三つの身体で一斉に頷き、小さく声を揃えた。

「頑張るわ。バレてはいけないもの」


「頑張るわ。バレてはいけないもの」


「頑張るわ。バレてはいけないもの」



その不気味なまでに完璧に揃った声と動作に、私は再び微かな不安を覚えた。『リエコ』が発生してから日が浅い。表世界に出るのも初めてだ。彼女がうまく適応できるのか、あるいは何か予想外の問題が起きるのではないかという不安は拭えない。

これからも『リエコ』に対する援助と観察が必要だろう。それが私の職務だが、個人的にも彼女たちが無事に、そして何より幸福に表世界で過ごせるようにと願っている。これは私の勝手な願望だが。

赤い目を持つ少女の群れは、新たな世界へ静かに踏み出そうとしていた。