RECORD

Eno.102 不明門通 辰巳の記録

【日記22】新月の話









裏世界北摩湖:円月岬










[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:15:42 No.2501144

───……ざり。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:15:56 No.2501146

─────……ざり。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:16:07 No.2501147

───────……ざり。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:20:23 No.2501196

ここに来る時は眩しいほどの満月が見える。
満ち欠けをするはずのそれが、いつ来ても丸のまま。


この世をば 我が世とぞ思ふ望月の
欠けたることもなしと思へば

そう彼の人が詠ったように。
まさしく欠ける事のない見事な満月を仰ぎ見て。
───綺麗だと思う。
───けれど同時に偽物だとも思った。


「向こうはだぞ」


二〇二五年六月二十五日は、表世界に於ける新月の日である。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:28:52 No.2501326

円月岬。
以前の酒の席で、螺千城に住む知り合いの一人に教えて貰った場所だ。彼女が夜を切り採り・・・・にくる場所の一つ。朝焼けと夕焼けを繰り返す裏世界で、よく探せば夜を見つけられる場所はそれなりにある。

けれど。
ヤッホー横丁の新月夜店通りはずっと新月で。
深夜のオフィスはずっと深夜で。
月見台はずっと月光で歪んでいて。

それらも歩き遠ざかれば、瞬く間に夕焼けないし朝焼けが押し寄せてきて、闇夜は視界の端へと追いやられてしまう。星が回り、影が生まれ、太陽の光を遮ったそこを夜としてサイクルを繰り返し。ごくごく普通に満ち欠けをする、ごくごく普通の月は。やはり表の世界にしか存在しない。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:32:04 No.2501377

月が自分の後ろをついてくるのだと幼い弟がよく話していた。
遠い距離にあるからそう見えるだけだ、目の錯覚だと教えてやったら、兄貴は何でも知ってるねと懐いてくれたものだが。


「向こうの月はついて来てたんだな。
 やっぱり……俺が間違ってた。
 辰巳の言ってる事の方が正しかったんだ」

ここの月は、自分が歩くと逃げてしまうから。
岬の奥まで行かなければその顔を覗かせてくれない。
ここから立ち去れば姿を消してしまう。つれない奴だ。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:42:05 No.2501525

さて裏世界の北摩湖にはこんな噂がある。
湖面に反射する景色が、裏世界でも表世界でもない、湖底に沈んだ別世界の光景を映し出す事があるらしい。水面は満月の夜にのみ、神秘の水鏡となるそうな。

……なんて、まことしやかに囁かれる噂の真偽は定かでない。自分もわざわざ確かめようなどとは思わなかった。たまたま話を思い出して、たまたま暦を照らし合わせて、丁度良く重なったからたまたま立ち寄っただけ。

これでもし新月でも浮かんでいれば拍手喝采だったのだが。
相も変わらず満月が出迎えるだけだった。

そもそも朝焼けと夕焼けを繰り返すこの世界で、赫赫と目を焼く陽光に邪魔されずに、夜を仰ぎ見て月を拝める場所とは一体どこなのだろう。

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:44:13 No.2501548

水面は揺らぐばかりで何も映さなかった。

「新月なら何か別の物が映るかと期待して、
 赴いたはいいものの───
 やっぱり満月じゃないとダメか」

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[北摩湖][円月岬]
  [Eno.102] 2025-06-25 02:46:30 No.2501573

満月じゃないとダメか、なんて。

こんなにも丸々と肥えた月が顔を覗かせているのに。
随分と不遜な物言いをしてしまった。

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後日、六月二十九日。

表世界北摩湖:湖畔








[Eno.102] [北摩湖][湖畔] 2025-06-29 23:46:37 No.2708378

Eno.102:不明門通 辰巳は北摩湖 - 湖畔へ移動しました。

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-29 23:48:30 No.2708440

「定期的な水質調査も大変やなあ。
 週一ペースやん……でもこういう地道な調査が
 いろーんなとこに繋がってはるんやろな」

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[Eno.102] [北摩湖][湖畔] 2025-06-29 23:48:38 No.2708443

Eno.102:不明門通 辰巳は湖畔の探索をしています……
静かな湖のほとりでは優しげにみなもが揺れている。

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-29 23:49:11 No.2708464

「……ここの湖やったよな。兄貴が言うてたの。
 でも今日は満月ちゃうしなあ」

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-29 23:52:12 No.2708545

「───水って境界線なんやて。兄貴が言うてた。
 だからタイミングさえあえば行けるんやないかなって
 俺は常々思ってるんやけども」

ざぶ、と手を突っ込む。水面が揺れている。
だって、だって今日は。今日はもしかしたら行けるかもしれない。


今日は己巳の日・・・・だ。

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-29 23:54:44 No.2708615

「なーんちゃって!ココ遊泳禁止やんな!
 やるわけないや───」

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[北摩湖][湖畔]
  [Eno.102] 2025-06-29 23:56:02 No.2708656

どん、と背中を押されたような気がした。

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-30 00:03:11 No.2708985

「───あっぶね!」

体勢を崩しながら思わず振り返る。誰もいない。だってわざわざ人目を忍んで水質検査に来たのだから。いるはずない、いるはずないのに。水面には自分しか映っていないのに。

「……ひゅう。おっかな。
 なんか蹴躓いたか足でも滑らしたんかな」

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-30 00:08:35 No.2709232

「でもさあ!あれやんな!」
「お前も沈んだ方が良かったって思てるやろ!」

水面が反射している。自分がそう語りかけてくる。
鏡に向かって「お前は誰だ?」と問い続けると自己崩壊を招く。
そう都市伝説でまことしやかに囁かれているが、結局その真偽は不明だ。

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-30 00:11:45 No.2709333

「……俺もそう思ってるよ。一緒やんなあ。
 兄貴の代わりに俺が行けばよかったのにな」

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[北摩湖][湖畔]
タツミ [Eno.102] 2025-06-30 00:19:08 No.2709627

「まあボヤいたところでどうにもならへんか。
 ままならんねえ人生っちゅう奴は」

腕を引き上げる。長く沈めていたせいか、指先がすっかりふやけて皺になっていた。適当に掬い上げた水をキャップ付きのフィルムケースに仕舞う。

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「本当は兄貴も思ってるやろ、
 俺がそっち行けばよかったって」


「お前それ言うの何回目だ?
 ……思ってないって」


「またまた~嘘ついちゃって!
 イケズなんやからもぉ~!」