RECORD

Eno.251 鳴宮優希の記録

【14.夜宵の華に枯れの手を】


 奏翔と穏やかに歩いていた。
 いつも通りに帰ろうとしていた。
 いつも通りの日常に、なるはずだったのに。

『──見ぃつけた』

 もう二度と関わらないであろう人の声。

 僕は暗闇に連れ込まれた。
 お母さまの声で命令をされれば、
 逆らうことなんて出来なかった。

  ◇

 連れてこられた劇場で、暴力を振るわれた。
 殴る蹴るは当たり前。痣だらけになった。
 僕が逃げないようにって、両足首を深く傷付けられた。
 痛かった。苦しかった。助けてと言った。泣いた。でもね。

「泣きたいのは私の方だよ!」


 泣けば暴力が酷くなるから。
 わたしは一切の抵抗をやめて、嵐が過ぎ去るのを待つだけ。

 飲まず食わず碌に手当てもされずに放置された。
 やっぱり私は“悪い子”なんだって、諦念が胸を支配した。

  ◇

──翌日。


 お母さまによる“演目”が始まる。
 最初の方の内容、覚えていないな。
 流れる悪趣味なハッピーバースデー。
 それはよく覚えていたけれど。

 気付いたら奏翔が、仲間たちが駆け付けてきていて。
 わたしは電飾コードから助け出されて。
 お母さまが奏翔を馬鹿にした。
 そしたら、わたしの中に怒りが生まれた。

「奏翔を……馬鹿に……する……な……!」


 傷だらけのまま前に進もうとするわたしを、
 奏翔の月の光が癒してくれた。


 その後、お母さまととうさんは怪奇になった。
 みんなで戦った。奏翔の月の光が側にあった。
 ふたりを追い詰めた。とうさんは土岐先輩が倒してくれた。
 蒼真の降らせた雨が道筋をくれる。百華に力を託された。

 わたしは、オマエを糾弾した。
 奪われてきた人生。泣きたかったこと。
 強い憎悪と憤怒を自覚した。
 こんな感情、わたしの中にあったんだね。

「──わたしはオマエに復讐する」


 胸の奥、復讐の悪魔アラストルが快哉を上げていた。
 さぁ、その激情を解き放て!

「──これより、正義を執行する!!!!!」


 氷の槍と白剣で、お母さまを貫いた。
 わたしが、お母さまを殺したんだ。
 その重荷を、胸に刻んだ。


 その後、奏翔が半エンダー化して、
 場を塗り替えてとある曲を演奏した。
 “怒りの日”。奏翔が抱いていた怒りの大きさを、実感する。
 お母さまたちはもう永遠に地獄の底。
 せいせいしたけれど、胸の奥が痛んだ。
 それでもやっぱりわたしは、お母さまが好きだったんだな。

 さようなら。ハッピーバースデー。
 お母さまたちの命日。
 そしてわたしの檻が、消えた日。

 夜宵の華に枯れの手を。
 罰は下され、天秤は正された。

「…………さよなら」