RECORD

Eno.175 水元イチノの記録

逆光

 夢を見た。夏で道路で夕暮れだった。

 逆光はあらゆるものを美しく着飾る。
 ある日駐車場に停まった車の持ち主を知ろうと待ち伏せをしていたら、彼女が降りてきて夕陽を背に笑った。
 違う。ありえない。思い出せない表情を、私の願望で埋めているだけだ。彼女は外で笑うような人じゃない。

 笑ってなんかいなかったはずなんだ。


 これに抗うために全てを遮断していたのに、結局は何も意味を為さなかった。
 滑稽だよ。雨でずぶ濡れの負け犬のように無様で無意味。このまま帰る場所もなく野垂れ死ぬ。

 忘れないように書き留めた日記はすでに擦り切れてはじめて、読み返して得られる快楽より失ったことに気づく苦痛の方が大きい。
 それでも救いだったんだよ、その快楽は。幸福に似た毒だったのかもしれないけど。

 そうだね、思い出は毒だよ。忘れることしかできないのに縋るほかない。

 もう残像じゃあ満たされないんだ。
 でもこの世界のどこにももう本物はない。
 あるのは私と、私の執着だけ。