RECORD
開かずの扉_00
はじめは、戸を開いたことが間違いだと錯覚した。
次に、それを観られたことが間違いだと。
次に、否定しなかったことが間違いだと。
次に、謝れなかったことが間違いだと。
次に、また規範を破ってしまったことが間違いだと。
次に、味方を得なかったことが間違いだと。
次に、まだ生きていることが間違いだと。
次に、ここに生まれてきたことが間違いだと。
次に、自分が生まれてきたことが間違いだと。
次に、何もかも全部が間違っていたのだと。
この世界も間違っていたのだと。
誰もが正しさを求め続けるのに、
どうして誰も正しい世界に辿り着かないのだろう?
それはきっと、正しい世界の扉の前に、
門番が立って、
誰も果たせない難題を繰り出しているからだ。
僕は、そう思っている。ずっと。




「山行きたい!!!!」

「うるさい」

「ヒューッ!!辛辣ゥ!!!」

「じゃ行くかあ 今から1d47振ります」

「47出たらどうするの」

「おっとナメてもらっちゃあ困るぜ 沖縄にも山はある」
「そーらゲェ東京!!!!」

「東京にも山はある」

「行き飽きてんだよォ都会の山なんてよ!!!
振り直しま~す オッ富山 フーン、悪くないじゃん」

「もうちょっと“言”で興味を表現しようよ
東京にも富山にも失礼だよ」
・ ・ ・

「ンじゃ行ってきま~す」

「連絡は?」

「最低1回、太陽が見えた時」

「期間は?」

「最長2週間、以降はどんな場合も捜索前提」

「うん、行ってらっしゃい」

「行ってきまァ~〜〜~~~す!!!!」
・ ・ ・
肌寒くなる時期だった。
北風が運ぶ雨雲は山に打たれて雪に変わる、季節の移り変わり。
登山者も気後れし始める頃に、一人の男は山を登っていた。
同行者はいない。あてになる道もない。
誰が見ても自殺行為と呼べる散歩が、その男の習慣だった。
草を踏む音。風に木々が揺れる。
日が沈んでいく。赤い夕陽を背に歩き続ける。
ベルの音が山々に響き渡り、時折不規則なホイッスルが鳴っていた。
歩き始めて2日ほど。
その男は一睡も取らずに動き続けていた。
山の奥へ、奥へ。

(涼しいな)

(山で迷ったことはない。どれだけ歩いても。結局、地形が急に変わるわけじゃないんだ)

(雪崩が起きても地面が割れても、それは元々の形があってのこと)

(突然変異ってのは起きない。自然の出来事はいつも摂理の一部だ)

(だから───)
経路を確認する。視線の先を見据える。

そこには、風化しかけの寂れた狩猟小屋があった。

(やっぱり、“誰か”の足跡がある。)
日が沈む。完全に明かりが消え立ったところで、男は懐中電灯を取り出した。
微かに遠くで鴉の鳴く声がする。
狩猟小屋まで近づいたところで、男はその建物に出入口の扉がないことに気づいた。

(今日はここで泊まれそうなんだけどな。
窓もないし……裏口に何かあったりしねーかなあ)
暫く周囲を見回す。
熊避け用の鈴と、足元の草木を踏みしめる音だけが鳴る。
見つけたのは、犬や兎、せいぜい子どもが通るのでやっとな潜戸だった。
鍵はない。開いた先は、懐中電灯で照らしてもなお光を吸い込むほどの暗闇があった。
男は予感していた。
この先には得体の知れない、男の常識とはかけ離れた“何か”があるんじゃないか、
荒唐無稽な閃きを与えるだけの不穏をその闇は湛えていた。

「…………」
「っし」「行くかあ!」
懐中電灯のスイッチを切って、
男はその戸を潜った。
・ ・ ・
どこまで進んだだろうか。
周囲に手を付いて這うように進む。
ダクトの中でも渡っているかのような感覚。冬の肌寒さに加えて、気の触れるような湿気。
ふっと、壁に添えていた手が空を切った。
進み切った。どこかの空間に出たのだろう。
男は、懐に仕舞った懐中電灯を取り出した。



「!?」

「ああ!?ガキぃ!?」

「煩っ」

「いやおま……おま!!!!ガキ!?
きたねえ!!お前風呂入ってねえだろ!!髪にウンコついてんぞ!!」

「だ 誰 いったんしずかに」

「灰原 臣!!
28歳男バックパッカー兼カメラマン兼無職!!!」

「ばっ ?? いや ちがくて」

「いやどうだっていいんだよそんなことは!
おい!汚い!風呂入れ!っつーかお前怪我してんじゃん!アホか!?
ここどこ!?クッソ狭くねえ!?さっきの長廊下なんなん!?」

「し しずかに」

「つーかお前ここで一人で暮らしてんの!?
メシは!?いやなんか他にも扉あんな そんなわけなくね!?
さっきの外の見た目に比べてずいぶん

(静かにしろ!!!!)

(すんませんした)
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☆人物紹介☆

俺
つよい。

ヒメ
しつこい。

謎のガキ
きたない。