RECORD
Eno.232 月影誠の記録
7/14
特別な人は作らない、と心に決めていた。
自分の暴力性をよく知っていて、特別な人ができてしまえばその矛先にしかねないから。
だからクロ以外の特別は持たないようにしようと思っていた。
アヤメと付き合い始めて20日くらい経つ。
ここまで穏やかな日々を送ることができるとは正直思ってもみなかった。
何度か良くないものが発露したことがあるし、七夕では盛大に迷惑をかけた。
それでも街を散歩したり、満月の湖畔を眺めたり。
想像もしていなかった幸せな日々を送っている。
妥協の幸福などではない。
はっきりと、心から……日々が楽しいと。そう思えるようになった。
日常を諦める要因であった、自分の加虐欲が認められている。
その上で、傷つけないと信頼を寄せてくれている。
自分のすぐ傍で無防備な姿を見せることにも抵抗がない。
それが、本当に嬉しかった。
治療室で滾々と眠る彼女の姿を見た。
暖かくも冷たくもない。温度のない、無表情。
息をしているだけの、人の形。
最愛の人が、ベッドに寝かされて、点滴で生を繋ぎ止められている。
初めの感想は、『美しい』だった。
その次に、『愛おしい』と思った。
それを追いかけるように『嫌悪感』と『寂寞』に駆られた。
そこからは、『歓喜』と『悲哀』と『憤怒』と『快楽』でぐちゃぐちゃになった。


本当に嫌な奴だな。
無事でよかったって、あの時は思えたのに。
この後ろめたさを露見させることなく過ごせたのに。
時間が経てば経つほどに、自分の抱いた感情に後ろ髪を引かれて。
瞼の裏に、治療室で眠る姿が焼き付いていて。
ガリ、と。
包帯の上から手の甲を噛んで、噛みしめて、噛み千切りかけて。
せっかく止まって乾いた茶色が、また鮮やかな赤に上書きされていた。
祝詞を唱えて、■■■■の力を使った反動。
居ると分かっていたからか、大事ではなかったのか。
使った力は大したことなかったらしい。
『対価』は、ただの『空腹』だけで済んだ。
自分の暴力性をよく知っていて、特別な人ができてしまえばその矛先にしかねないから。
だからクロ以外の特別は持たないようにしようと思っていた。
アヤメと付き合い始めて20日くらい経つ。
ここまで穏やかな日々を送ることができるとは正直思ってもみなかった。
何度か良くないものが発露したことがあるし、七夕では盛大に迷惑をかけた。
それでも街を散歩したり、満月の湖畔を眺めたり。
想像もしていなかった幸せな日々を送っている。
妥協の幸福などではない。
はっきりと、心から……日々が楽しいと。そう思えるようになった。
日常を諦める要因であった、自分の加虐欲が認められている。
その上で、傷つけないと信頼を寄せてくれている。
自分のすぐ傍で無防備な姿を見せることにも抵抗がない。
それが、本当に嬉しかった。
治療室で滾々と眠る彼女の姿を見た。
暖かくも冷たくもない。温度のない、無表情。
息をしているだけの、人の形。
最愛の人が、ベッドに寝かされて、点滴で生を繋ぎ止められている。
初めの感想は、『美しい』だった。
その次に、『愛おしい』と思った。
それを追いかけるように『嫌悪感』と『寂寞』に駆られた。
そこからは、『歓喜』と『悲哀』と『憤怒』と『快楽』でぐちゃぐちゃになった。

「……思いたくもないんだよ、本当は。
好きな人が死にかけてるときにくらい、
心から純粋に、ただ悲しいと思いたかった」

「―― 俺はやっぱり、ろくでなしらしいや」
本当に嫌な奴だな。
無事でよかったって、あの時は思えたのに。
この後ろめたさを露見させることなく過ごせたのに。
時間が経てば経つほどに、自分の抱いた感情に後ろ髪を引かれて。
瞼の裏に、治療室で眠る姿が焼き付いていて。
ガリ、と。
包帯の上から手の甲を噛んで、噛みしめて、噛み千切りかけて。
せっかく止まって乾いた茶色が、また鮮やかな赤に上書きされていた。
祝詞を唱えて、■■■■の力を使った反動。
居ると分かっていたからか、大事ではなかったのか。
使った力は大したことなかったらしい。
『対価』は、ただの『空腹』だけで済んだ。