RECORD

Eno.49 雨の記録

異説『よだかの星』

俺の物語は、最初の頃は原典と同じだった。
醜く、弱く、誰も見たがらない惨めな鳥。
そんなよだかに鷹が迫って、名前を改めろと言い寄り脅迫されて、
惨めなよだかは、嫌になって遠く何処かの空へと飛んでいく。
兄弟とも別れ、ただ、死ぬために。

そこまでは俺も同じだった。
ただ一つ違ったのは……よだかが原典から逸脱してしまったのは……

「私から、ひとつおくりものをしてあげよう」
「お前が、どこでも飛べるように私の祝福を授けよう」

原典にはない、一つの贈り物。
太陽という星からの一瞥。最初の祝福。
それが、よだかを逸脱させてしまった始まりだった。

「そんなお日さん、お日さん。私はそんなの受け取れません」
「いいや、受け取らなければきっとお前は、ひかりを出すことはないだろう。お行きなさい」

太陽は俺の意を汲み取らないまま、押し付けて遠くへと行ってしまった。
よだかは話の通り、星に向かって飛んでいく。
しかし、あの一瞥を期に、原典から離れ逸脱していった。

「その温かさは……お前は太陽の祝福を持っているのだな?面白い、俺の所には連れていけないが、俺も同じように祝福を与えてやろう」
気に留めなかったオリオンは、太陽を見てその勇ましい歌を止めよだかを一瞥した。

「その勇ましくある身体はオリオンのだろう?たかが鳥にしてはやるじゃないか。俺の所はダメだがどこまでも飛ぶというのなら、くれてやらんでもない」
馬鹿にしていた大犬は、少しよだかを認め、一瞥した。

「命を失ってでもお前は星になりたいのだな。その覚悟を見届けよう。私の所にはお前を連れてはいけないが大犬のように私もお前の助けになるように渡しておこう」
頭を冷やせと言っていた大熊は、その覚悟を見届けて一瞥した。

「そんな祝福を持っているとはよだかの癖にいい身分だ。俺の所にはまだ足りないが……良い星になれるように見渡せる目を見つけてやる」
鷲は、その身分に免じてどこまでも見渡せるようにと一瞥した。

よだかは、どこまでも、どこまでも、まっすぐに空へのぼって行きました。
息が白く凍っても、寒さや霜が剣のように刺してもよだかはそれでも飛んでいきます。
途方に暮れるほどに、時間を掛けてよだかはそらへと飛んでいきます。

「よだかよ」

誰かがよだかに話しかけます。
それは、カシオピア座でした。

「よだかよ、お前の羽ばたきを、願いを見ていました。さぁ私の隣で星となりましょう」

カシオピアは手を差し出すようによだかを照らします。
だけど、よだかは躊躇ってしまったのです。
よだかは、既に気づいていました。

「ごめんなさい、私はあなたの隣にいることはできません」

星々から一瞥されたよだかは、もう醜くはありませんでした。

太陽のように、無限に動けるエネルギーを内包それはいつしか炎となりし、
オリオンのように、鳥から外れた身体となり音を立てて人型のように巨大化し
大犬のように、どこまでも遠く疾く駆け抜ける速さを身に着け翼は大きく肥大化し腕と同化し
大熊のように、強靭で逞しい剛力を手に入れ四肢は太く大きく
鷲のように、どこまでも見渡せる大きな目を黄色い大きな目を宿しました。

そこにいたのは、祝福呪いによって変わり果て怪物と化したよだかでした。

「こんなに変わり果てた私が、貴方の隣の星にはなれません」
「お前の願いは星になることではなかったのですか」
「はい、それは私の願いです。それは今も変わりません」
「ならば、どうして」
「……私は、変わり果ててもまだ星になることを諦めていません。
 もっと輝ける星に私はなりたいのです」
「だから、まだ飛ぶというのですか」
「はい、諦めずにどこまでも飛んで……宙天へ。
 きっと、この祝福呪い……呪い祝福は私をつき動かしてくれるだろうから」
「……そうですか。それならば私からも祝福呪いを一つ。お前が最後に星となる宙天へたどり着いた時は我が祝福を告せ。
 祝福はお前に授けるはずだった星の名である。その名は
   ■■■その名を胸に、どこまでも飛んでゆくがよい」
「……ありがとうございます、さようなら」

こうして、よだかは再び翼を広げ、遠い遠い星を目指しました。
身体からは蒼い炎が灯り、燃えていく。
この炎が光となって、遥か彼方に飛んでいく。

この光がどうか、諦めない者達の指針の証であれますように。
そのためならば、よだかはどこまでも飛ぶだろう。

今でもよだかは諦めずに燃えているのです。