RECORD

Eno.468 月澪 銀の記録

帰郷嫌悪

「裏世界の南区へ行くように」

学長はそう耳打ちすると、肩を強くたたいてくる。
協力者、ということでこちらの素性もよくご存じなんだろうが、一体どれくらいこちらに入り込んでいるんだろうか。

正直なところ、私は裏世界には思い入れというものがあまりない。生まれた場所ではあるけれど、ここには思い出らしいものは何もない。ひどい目を見たことは多いけれど。
片田舎の若者が都会にあこがれ地元を腐すようなものだと思ってもらえばよい。
敵は多いし、巨大な躯体の怪異は面倒くさい。
念願かなって「表」に行けたのに、なんだってまた戻らないといけないのか、とぶつくさいいながら、久しぶりに裏の地を踏んだ。

(なんか居心地悪いな)
それが素直な感想だった。何十年と住んでいたはずだけれど、もう別の場所のように感じる。
アザーサイドコロニストにビジターとして登録しても、その実、私はほかの怪異たちに対して仲間意識やシンパシーなどは感じない。

いっそ裏世界ごと、全ての神秘が解き明かされて、すべて陽に照らされた朝靄のように消えてしまわないだろうか、とぼんやり考えている。