RECORD
Eno.98 十八成 玄の記録
わざわざ聞かなくとも調べられている事はある。
衛生課で保護されてから一年間の、
ほぼ入院と言っても差し支えない観察期間の中で。
彼が蛇憑きであること。
彼の命は蛇により保たれている事。
蛇の命もまた、彼により保たれている事。
彼を守るように、蛇が一匹彼の側に必ず居る事。
表世界では力が弱まるのか、蛇は姿を隠す事。
彼は共存を受け入れていた。
「自分が望んだ事だ」と笑っていた。
彼の生命力は、彼を助けた蛇に貪られ続ける。
蛇は生命力を喰らうたび、自身の力を彼へと返していた。
そうして彼らは生きていた。
奇妙な力の円環が生まれていた。
しかし蛇の本質的な部分については、
終ぞ分からずじまいであった。
質問に何も答えてくれないのは昔からだ。
彼に憑いた蛇が喋る事も無かった。
高校を出るまでは随分と虚弱であり、
少しの運動で体に負荷が掛かる。
両親が献身的であった故に、彼の支えとなってくれた。
おかげで彼は成人し、今は専門学校に通っている。
喜ぶべきは、成人後に蛇の好む酒を
彼が摂取できるようになった事だ。
お陰で彼自身への負担は随分と減り、
彼を介して蛇へ酒を与える事でまともに動けるようになった。
飲酒量が適切かどうかは目を瞑る事にする。
彼の人としての健康診断は、今回も正常だったし。
懸念すべきは。
彼が蛇を通して使う神秘の事。
彼がどれほど、あの蛇に順応しているか。
蛇がどれほど、力を有しているか。
彼が神秘の登録の為、管理局に提出した内容。
最初はとても簡潔なものだった。
『呪力の操作』『使役』『逆行』のみ。
詳しく聞けば、これについては渋々答えた。
蛇から漏れ出ている呪力の形態変化。影を門とした蛇の召喚。
特定の対象の状態の逆行。
前者二つは敵性神秘に対する対抗手段として。
逆行はその性質を利用した、怪我などに対する応急手段としての登録。
その全ては受理されて、現在も行使されている。
聞けば確かにシンプルだが、同時に疑問もあった。
その三つ全てにおいて。
今も。
範囲は、規模は。
どこから、どこまで?
彼は答えなかった。
暴けば弱まる神秘だと言う。
彼はその殆どを秘匿したがる。
必要以上の観測も、神秘に対する定義も、
彼にとっては不要で、不快なものであるらしかった。

けれど、今回の件については、彼に聞かなければならなかった。
七未めりい。
旭九音。
8年前、彼と共に『何らか』に巻き込まれた両名に、
恒常的かつ半永久的な逆行の作用が確認されている。
二人から感じられる仄かな神秘の気配は、あの蛇と同じなのだ。
蛇足・5
わざわざ聞かなくとも調べられている事はある。
衛生課で保護されてから一年間の、
ほぼ入院と言っても差し支えない観察期間の中で。
彼が蛇憑きであること。
彼の命は蛇により保たれている事。
蛇の命もまた、彼により保たれている事。
彼を守るように、蛇が一匹彼の側に必ず居る事。
表世界では力が弱まるのか、蛇は姿を隠す事。
彼は共存を受け入れていた。
「自分が望んだ事だ」と笑っていた。
彼の生命力は、彼を助けた蛇に貪られ続ける。
蛇は生命力を喰らうたび、自身の力を彼へと返していた。
そうして彼らは生きていた。
奇妙な力の円環が生まれていた。
しかし蛇の本質的な部分については、
終ぞ分からずじまいであった。
質問に何も答えてくれないのは昔からだ。
彼に憑いた蛇が喋る事も無かった。
高校を出るまでは随分と虚弱であり、
少しの運動で体に負荷が掛かる。
両親が献身的であった故に、彼の支えとなってくれた。
おかげで彼は成人し、今は専門学校に通っている。
喜ぶべきは、成人後に蛇の好む酒を
彼が摂取できるようになった事だ。
お陰で彼自身への負担は随分と減り、
彼を介して蛇へ酒を与える事でまともに動けるようになった。
飲酒量が適切かどうかは目を瞑る事にする。
彼の人としての健康診断は、今回も正常だったし。
懸念すべきは。
彼が蛇を通して使う神秘の事。
彼がどれほど、あの蛇に順応しているか。
蛇がどれほど、力を有しているか。
彼が神秘の登録の為、管理局に提出した内容。
最初はとても簡潔なものだった。
『呪力の操作』『使役』『逆行』のみ。
詳しく聞けば、これについては渋々答えた。
蛇から漏れ出ている呪力の形態変化。影を門とした蛇の召喚。
特定の対象の状態の逆行。
前者二つは敵性神秘に対する対抗手段として。
逆行はその性質を利用した、怪我などに対する応急手段としての登録。
その全ては受理されて、現在も行使されている。
聞けば確かにシンプルだが、同時に疑問もあった。
その三つ全てにおいて。
今も。
範囲は、規模は。
どこから、どこまで?
彼は答えなかった。
暴けば弱まる神秘だと言う。
彼はその殆どを秘匿したがる。
必要以上の観測も、神秘に対する定義も、
彼にとっては不要で、不快なものであるらしかった。

「………………」
けれど、今回の件については、彼に聞かなければならなかった。
七未めりい。
旭九音。
8年前、彼と共に『何らか』に巻き込まれた両名に、
恒常的かつ半永久的な逆行の作用が確認されている。
二人から感じられる仄かな神秘の気配は、あの蛇と同じなのだ。