RECORD

Eno.2018 東谷 桃弥の記録

追想②


ある日、人気のない高台にひとりで呼び付けられた。
星が綺麗で、空気が澄んだ夜だった。

到着してしばらく、隼斗さんは何も言わないで夜景を眺めていた。
だから俺も何も言わずに一緒に眺める。
何の用事か気になるけど…なんとなく、隼斗さんの横顔がいつもと違う雰囲気を纏っている気がして。

沈黙を破ったのは、隼斗さんだった。


『お前、もういらねぇ』
「……、…え?」

なんの前触れもなく、そう言われた。
言葉の意味が分からなくて…分かりたくなくて、言葉を返すまでのほんの数秒が、何時間もあったように感じた。

「な……なんで…っスか、どうしたんスか、急に。だって昨日まで、」
『お前、弱っちぃんだよ』

こっちを見ることもなく、隼斗さんは言う。
吐いた煙草の煙が、穏やかな風に攫われて消えていく。

『弱い奴はいらねぇ。今までもそうだったろ。
…ま、そういうこった。今後アジトには来るなよ』
「ま、待って!納得いかねっス!この間手合わせしたじゃねぇっスか!その時は褒めてくれて…」
『口答えすんのか』

ドスの聞いた声に言葉が詰まる。
紅い瞳が、俺を刺してくる。
こうなると、いつも何も言えなくなる。

『二度と俺に…俺らに関わるな』

それだけを言って、隼斗さんは俺の横を通り抜けていった。
夜の風に、俺だけが取り残される。


なんで。
なんで急に。
俺が弱いから?


それから連絡もとれなくなって。
アジトだった場所も、次に行ったときにはもぬけの殻になっていた。


捨てられたのかな。
俺が弱いから。
強くなれば、いつかまた会えるのかな。


隼斗さんや仲間たちの行方は、それ以降なにも分からない。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「アザーサイド、っスか…」

裏世界のことを知るのは、それから間もなくだった。

知らない間に迷い込んだ裏世界の路地で喧嘩をふっかけた相手、怪異だったんだと。
殴ったら消えたからビビったけど…どうやら俺には怪異を退治する力があるらしい。

秘密裏に何かの手続きがあったのか、どういう理由付けをされたのかは知らねぇけど、俺は北摩市の高校に転校することになった。

まあ、不良グループにいて問題ばっか起こしてたし、誰も疑問にも思わねぇだろ。
親は猛反対してたけど、知らね。

…隼斗さんがいなくなってから、心に穴が空いたみたいになって。
気を紛らわせるために誰かとつるもうにも、怖がって誰も近寄らない。そりゃそうだよな。
今の学校で今更ダチを作るとか無理だから、転校はまあ、いいきっかけにはなんのかもな。


…せめて、もう一度だけちゃんと話ができたらな。