RECORD

Eno.133 氷野 はづきの記録

今日の空模様


今日は晴れ。
昨日も、その前も……明日も、きっと晴れ。



今までは、晴れてるようで曇ってた。
薄い雲が空を覆って、届く光を弱めてた。
毎日がどこか翳っていて、霞んだような心地。
それに気付いてはいたけれど、どうにかしようとも思わなかった。
そうじゃないと、この足元で薄くなった影みたいに、オレ自身も消えてしまいそうだったから。


他人に期待したくなかった。
仲良くもなりたくなかった。
そうしたら顔も名前も覚えられなくて…だけど困りはしなかった。
裏切られるよりはマシだから。

変な奴だって言われてた。
人とズレてるのが当たり前だった。
でもそれでよかった。ひとりになれるから。
離れていってしまうよりマシだから。


そうやって死ぬまでを過ごすんだろうと思ってた。



でも、今は。



空ってこんなに青かったんだ。
空気ってこんなに澄んでたんだ。
お日様の光に照らされると、世界はこんなに輝いてたんだ。

鳥の声が歌ってるように聞こえて。
湖の水面が踊ってるように見えて。
濡れたアスファルトの匂いが好きになった。

人の名前を覚えたいと思った。
みんながしていることに興味を持った。
新しいことに挑戦したくなった。

明日が来るのが楽しみになって
未来を歩きたいと思った。

変わらないものはまだあるけど。
変わることが嬉しくなった。




ねえ、お母さん。
あなたも昔は、輝く世界で生きてたんだよね。
あなたの人生は、土砂降りの中で終わってしまったけれど。
一緒に、晴れた空を見てみたかったな。

ねえ、お母さん。
今日もアイス買ったんだ。
あの時のパッケージは忘れちゃったけど、この空みたいに青かったのを覚えてる。



「転んじゃったんだ。痛かったね」
「そうだ、アイス買って帰ろう。はづきの好きなの選んでいいよ」
「おいしいもの食べれば、痛いのなんか吹き飛んじゃうから」




8月の夕暮れの思い出は
これからもずっと忘れない。