RECORD
Eno.643 緋山 大志の記録
緋山大志[003]
その日の街は霧がかかっていた。
触れれば濡れそうでいて、決して湿らない、神秘を含んだ白。
高所に座る狒々は、いつも通り動かなかった。
ただ今日は、下の路地に気になる影があった。
小さな人の形。子供のような背格好。霧の中で夢のように滲む。
影はしゃがみこみ、何かを地面に並べていた。
石ではない。空き缶のようなゴミでもない。
きらきら光る、透き通った欠片のようなもの。
まるで氷の破片か、誰かの記憶のきれはしのようなもの。
それらを影はひとつずつ拾っては列をつくり、また崩し、時には丸く、時には文字のように。
意味があるようで、まるで意味もなく、並べていたのだ。
狒々はその様子を、長いこと見ていた。
理解できないことへの、拒絶でも拒否でもない、興味。
――あれは、遊んでるのか?
自分でも意外なことに、口に出した瞬間、しっくりと来た。
意味など無い。目的も無い。ただ、そうしているだけ。遊んでいる。
ふと、影が手を止めた。
仰ぐように顔を上げ、霧の向こうの高所をじっと見る。
目が合った気がした。
次の瞬間、影は自ら並べたものを一掃し、音もなく立ち去っていった。
そこには透明な破片が、ばらまかれたまま残っていた。
狒々は何度かまばたきをし、小さな影の居た場所に降りて行った。
遊びの跡を、まだ間近で見るために。
触れれば濡れそうでいて、決して湿らない、神秘を含んだ白。
高所に座る狒々は、いつも通り動かなかった。
ただ今日は、下の路地に気になる影があった。
小さな人の形。子供のような背格好。霧の中で夢のように滲む。
影はしゃがみこみ、何かを地面に並べていた。
石ではない。空き缶のようなゴミでもない。
きらきら光る、透き通った欠片のようなもの。
まるで氷の破片か、誰かの記憶のきれはしのようなもの。
それらを影はひとつずつ拾っては列をつくり、また崩し、時には丸く、時には文字のように。
意味があるようで、まるで意味もなく、並べていたのだ。
狒々はその様子を、長いこと見ていた。
理解できないことへの、拒絶でも拒否でもない、興味。
――あれは、遊んでるのか?
自分でも意外なことに、口に出した瞬間、しっくりと来た。
意味など無い。目的も無い。ただ、そうしているだけ。遊んでいる。
ふと、影が手を止めた。
仰ぐように顔を上げ、霧の向こうの高所をじっと見る。
目が合った気がした。
次の瞬間、影は自ら並べたものを一掃し、音もなく立ち去っていった。
そこには透明な破片が、ばらまかれたまま残っていた。
狒々は何度かまばたきをし、小さな影の居た場所に降りて行った。
遊びの跡を、まだ間近で見るために。