RECORD

Eno.712 茅鳴 ほみの記録

茅鳴直生の日誌 #12

ほみは多分、あの暗い袋小路で生まれたばかりの怪奇だった。
黒くて壁のような液体のようなものが、手のようなものを多数伸ばした姿。
気づけばそれはとぷんと水たまりに沈んで、次見た時にはひとの形をとろうとしていた。

興味本位であいつに人間を教えたのは、俺の罪だ。
誰よりも自由だったものに、かたちを与えた。

そのうちあいつに振り回されて、面倒を見ることになったのは、俺の責任だ。
人間のルールの中で、自由にさせておくために。

今のほみからはもう、
人間らしくないところを見出すことができない。
裏世界で話すことすら、表でやった遊びや観た映画の話ばかりで。

「楽しいのか?」と訊く。
「とっても 楽しいよ!」と返る。

ほみは自分が怪奇である自覚があるらしいが。
それがなくなった時、この袋小路のことを忘れた時。
こいつは俺よりも人間らしく生きていくことになるのか。
俺よりもたくさんの人生の楽しさを見つけて、
俺のこともいつかかまわなくなるのだろう。

でも。
こいつがどうなるかを見届ける、責任が俺にはある。

ほみと、話をしなければならない。
訊かなければならない。
真意を。そして、この先も共にいれるかを。