RECORD

Eno.38 穂叢 焔芽の記録

幕間:禍気祓火

「昔話になるんだけどさ。」

「たしか君は中国の生まれだよね?
 だからこの話は知らないかと思ってね。」


「僕の生まれは平安時代も末期、その頃は呪術の全盛期だなんて言って、研究も盛んでさ。」

「祓之火、という呪術が最盛期を迎えたのもこの頃の話だったね。
 火を崇め、火を司り、敵を、穢れを焼き払うシンプルで使い勝手の良い呪術だった。」

「過去形、ってことはつまり……まぁ、今は廃れたってこと。
 単に血が途絶えたとかじゃなく理由があってね。」


「穂叢という、呪術師の家系があった。」

「彼らは祓之火を編み出し継承してきた一族の末裔だね。
 その力でもって、人の世を照らし、数々の穢れを祓うことに心血を注いだ一族だった。」

「まぁ、でもアレはやり過ぎたんだろうね。」


「彼らは火之迦具土神が御名を借り、宿し、彼ら自身が現世の穢れを祓い清める神になろうとした。」

「別に神道じゃ、人が神になるなんてことは普通のことではあるけどさ。
 やり方が悪かったんだろうね。」


「それ自体は成功したんだよね、実は。
 触れるもの、神すらも焼く焔を手に入れた彼らは、自らも焼き尽くした。」

「成功っちゃ成功でしょ。
 神へ至る方法と、存在ごと焼き尽くして死に絶えるほどの力を得た。」


── 禍気祓火。


「あの子の呪術、その正体だね。
 残滓だけでも継がれてるってことはもちろん生き残りが居たってことだよ。」

「火之迦具土神の怒りだと、子孫たちは畏れ、代々祀ることで鎮めようとした。」

「その伝承すら残ってないらしいから、僕と君の記憶の中だけの話になったけどね。」


「そう。僕はあの子に……焔芽に、この話をしてない。」

「本当はね、たぶん君の力なんて無くたってひとりで呪術を使えるはずなんだ。」

「もし出来たら、それに慣れたら。
 いずれは死に至る。」

「君の加護がどれだけ強力でも。
 あれはたぶん、死ぬまで焼くようにできてる。」

「だから僕は教えない。
 あの子が死ぬまで、ただの人間で在るためにね。」


「あの子は、ひとりで神秘を扱う術を持たない。
 君なしでは裏で活動できない。」

「そういうことに、なっている。」


「僕は嘘をつくよ、平気で。
 誰かを守るためであれば良い、そう教えたのも僕だよ。」

「願わくば、僕の嘘がバレないように、かな。
 自力で気付かれたら。そして万が一……死ななかったら。」


「僕が殺さなくちゃならないかも。」