RECORD

Eno.966 棚町ミヲの記録

1. そう、マグカップの持ち手とか

「こう、ここが少し、薄そうじゃないですか……」


高校生ぐらいの子どもが、静かな個室で空っぽの缶をカリカリとひっかいている。
有名ブランドのコーヒーの小さな缶だ。

それを一人の大人がじっと見守っている。
コッ、コッ、コッ、やけに古いタイプの時計の秒針が鳴っている。
神秘管理局が管理する個室内に、しばらく無言の時間が流れた。

「……あ、ほら。」

「おぉ。」


缶を持ち替えて親指でグッと押すと、その部分が縦に裂けた。
それから、怪我をしないように、ハンカチの上から裂け目を持って引っ張る。

そのようにして棚町ミヲは、缶の腹をちぎり取った。

「こういうのって、程度の差はあるけど、誰にでもある感覚だと思うんです。
 薄い部分を割るとか、細い部分を折るとか、凹みそうな部分を押すとか。
 こうしたら気持ちがいいだろうなって……。」

「その缶はスチールだ。」

「え?あ、はい……私、実際に見たの初めてです。
 そういう缶があるのは知ってたけど。」


大人は、少し困った顔をしている。
棚町ミヲは何かを察して、言い訳するように「多分、アルミのでもできます」と続けた。

「それは……人前でも、よくやる?」

「え、えっと意識せずなんとなくやっちゃうことはあって。
 なるべくやめようとはしてるんですけど、ボールペン分解したりとか……」

「ボールペンぐらいならいい。」

「え、えっと……あとは、なんだろう……」




「……つまりこれが、その……説明を受けた、"神秘"ってこと、ですか?」



「少なくとも私はそう考えている。
 君が察する通り。我々にとって秘匿されるべき術だ。」


「私たちは君のような存在について、
 最初に『人材にできないか』と考える。人手は貴重だから。」

「では、次はどう考えるだろうか?『どうやって管理化に置こうか』と考える。
 では、その次は?『どうにか無力化できないか』と考える。

「ではその次は……いくつもいくつも"次の考え"があって……
 次に行くほど、君は不利になっていく。」



「……さて、私の今の考えはこうだ……
 神秘管理局の先輩として、君にとって一番いい選択を与えたい。
 だから、可能な限り、頼れ。」

「以上だ。偽名だが『ナレッジ』と呼ばれている。お前は?」


「……。」



「棚町ミヲ。」



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【今回の要約】

・棚町ミヲには、物を壊すことに関わる不思議な力がある。
・棚町ミヲは、神秘管理局によって保護された。
・棚町ミヲは、けっこー不安である。