RECORD

Eno.133 氷野 はづきの記録

葉月の空①


寮からは少し距離がある、閑静な住宅地。
…午前からすごく暑い。汗を拭いながら、そこに立つ小さな一軒家の、見慣れた玄関のドアを開けた。

「ただいま」
『おお、おかえりはづき』

リビングから男性が顔を出す。
でも、この人は父親じゃない。
ここはお母さんの兄、オレにとっての叔父さんの家。

そっちへ向かうと、テーブルの上にはカップアイスとスプーンがちょこんと乗っていた。
もうすぐ着くと分かって、ちょうどよく溶けるように出しておいてくれんだ。
暑い外から帰ってきたからすぐにでも食べたいけど…まずはお母さんに会いに行かないと。

「…ただいま、お母さん」

仏壇の真ん中で、写真の中のお母さんは今日も笑っている。
お線香をあげてから目を閉じて、軽い近況報告を心の中で。
この数ヶ月にあったたくさんのことを報告するのは、この一瞬じゃ足りないけれど。


叔父さんは、母さんが亡くなってからオレを引き取って、男手一つで育ててくれた。
だからたくさん感謝してる。



手を洗ってから、アイスの蓋を開ける。

『どうだ、大学は。ちゃんとやってるか?』
「うん、ぼちぼち…」
『単位ちゃんと足りてるか?』
「……大丈夫…多分」

ふうん?と目を細めてくる。
茶化しているようだけど…あまりに他愛のない会話。
きっと、オレに何か言いたいことがあるんだろうなって分かる。

『束都は諸々の費用が安いからな、正直助かるが』
「うん…ありがとうね、通わせてくれて」
『高卒と大卒じゃ、就職の幅も段違いだからな。人生少しでも生きやすい方がいいだろ?』
「…まあ、そうかもだけど」

人生は楽に、生きやすく。
叔父さんは、昔から口癖みたいにそう言ってた。
その言葉の通り、竹を割ったような性格だけど。

アイスを食べ切ってスプーンを置く。
叔父さんを見れば向こうのソファに座って、新聞を眺めてる。
そのまま視線を滑らせて何気なくカレンダーを見たら、不規則に書かれた記号の並びに気付く。

「ごめん。今日、明けだったんだ。
もっと忙しくない日にすればよかったね」
『別に?さっき寝たから』

叔父さんは医療従事者だ。夜勤もするから、シフトによっては疲れてる日もある。
不自由なく暮らせていたのは、本当に叔父さんのおかげだ。