RECORD

Eno.172 小谷 侑一郎の記録

幸運な男

ある日、小谷は役所と神秘管理局へ問い合わせ、組織が勝手に集めたであろう己の過去に関する記録を開示するよう求めていた。

あの日裏世界へ迷い込んだ自分が何故、記憶処理などではなくこの学都へ招かれたのかが知りたかった。
あわよくば自分にも異能の芽生える余地があるのではというささやかな希望を胸に。


──結論から言うと、小谷には特筆すべき力は何もなかった。

本人たっての希望ならと驚くほどあっさり開示されたデータは、誰かのヒーローでありたい彼の希望と下心を簡単に打ち砕いてくれた。
小谷は遺伝も由来もごく普通の人間で、神秘的な力への耐性も特にない。特別な呪いやアイテムを持っていたりもしないし、今後裏世界で多少ショッキングな目にあったとしても特別な力の芽の出る可能性はほぼゼロであるから「変な気は起こさないように」と念押しされた。
「君には力が無いんだから、後方支援に回ってくれたっていいんだよ」とも。


それと。
なるべく見ない方が、と止められた書類には古い事件の記録があった。

××年××月××日、〇〇社旅客機墜落の事件に関与。
該当機に搭乗記録はあるものの本人は空港に取り残されており、偶然乗り遅れたとされている。
同行していた叔父のみ搭乗し、死亡。

××年××月××日、〇〇県××市にて大型車を含む多重衝突事故にて生還。
死傷者多数の事件となったが当人は両脚の骨折のみ。

××年××月××日、北摩市〇部裏世界、××にて保護。
友人〇〇の死亡を確認。〇〇は自殺用と思われる道具のほかナイフを所持していた。

怪奇による干渉の可能性あり。保護観察を行う。


懐かしい記憶だ。忘れたことなど一度もない。
「運がいいね」と職員の誰かが言った。



それから数日後、小谷の携帯に着信があった。
「先輩、小谷先輩。どうしよう、うちの会社、潰れるかもしれないんです。
もう二ヶ月は給料が払われてなくて……!」