RECORD

Eno.38 穂叢 焔芽の記録

1限 呪術基礎概論

八百 レイ
呪術の専門家であり、特に呪歌に精通する。
趣味はゲームと睡眠で、特技はどこでも立ち寝できること。


------------

「呪術、って聞いて想像するものってなんだと思う?」


呪術、即ち呪いの術。
呪いと聞けば、その多くがおどろおどろしいもの、暗く陰鬱な物を想像するのだろう。
その例としては、たとえば丑の刻参りだとか。

「まず改めて欲しいのはその認識だね、必ずしもそうじゃないってことかな。」

のろい、あるいはまじないっていうのは、何か結果を得る手段でしかないんだ。」


より詳しく言えば、類感または接触を介して作用し、望む結果を得ようとする手法のこと。
即ち何らかの接点をもとに、対象に働きかけること。

丑の刻参りは、例えば対象の名前と身体の一部を介して危害を加える。
雨乞いは、例えば水を撒くという行為を介して雨を呼ぶ。

「得たい結果と関わりのある何かに対して働きかける。
これが呪いであり、それを体系化したのが呪術というものだね。」


体系化したもの。
いくつもの形式が形作られ、しかし神秘が表世界から消え去り、そしてほとんどが絶えた。

「そうしてかつての主流は……僕の知る限り一系統、それ以外は存在してもごく一部かな。
呪術以外なら、今じゃ学連で学科として教えてるはずだけど……」

「体系化してない神秘も別ね、怪奇がいくらでも使うから。」


神秘を扱う以上は万人と言えないが、しかし体系化した"術"と言うからには習得可能なものである。
生まれ持ち、手足の一部であるものは呪いであろうと"術"と呼ばないのだ。

「そういう観点で、僕の知る範囲で最も主流になった系統は……言葉を媒介とするパターンかな。
火というものは物理学的には急激な酸化によって発するプラズマだけど、解明されて尚も魔を祓うと信仰され、そこに神秘が宿る。
その信仰の礎として、火という概念を顕す”言葉”が必要なんだ。」


元来、世界は混沌としている。
首がどこかと聞かれて答えられない人間はおよそいないだろうが、しかし、どこまでが首かと問われて答えられる人間はいないはずだ。
首と顎、首と肩は本来つながった部位なのだ。

言葉によって、世界は切り分けられる。
切り分けることによってのみ、そこにあるものを認識できる。
言葉によって切り分けることで、同じ概念を共有できる。
そうして共有されたものは、ひとつの神秘足るのだ。

「さて、思想と派閥によって扱いの変わる話なんだけど。
祈祷……つまり神頼みってものも、僕らは呪術の一形態として扱うよ。」


神という対象に対して、祈りという働きかけによって何かを発生させる。
祈りという働きかけによって、その権能を借りる。

「神官なんて分かりやすい例かな、神へ仕える代わりに力を借り受けるでしょ。
彼らも分類上、僕らは同じ系統に……つまり、神の御名によって呼び出し、力を借りる呪術として分類しているね。」

「今でもこの系統は根強く残ってるね。
……もっとも、血筋そのものが薄れつつあって術者が残ってるかどうかだけど。」