RECORD

Eno.225 葛山の記録

急に力に目覚めても困る



「つきましては――先程もCEOから案内を受けたかと思いますが、我々の露払いと多少のお手伝いをお願いしたく」

 カレントコーポレーション裏北摩営業所。
 幾つものプレハブ小屋のひとつに、僕は居た。 

「えっと。つまり、これからああいった化け物と戦う感じですか……」

 手渡された検査結果を見つめる。内容は、あまり良く分からない。

「ああ、いえ……直ぐに危険なお仕事をお願いする訳ではありませんからご安心を。
 ただ、あなたの持つ神秘を、弊社にお役立て頂きたいのです」

「え? 待ってください。神秘?」

 聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。

「え?」

「身に覚えがないんですが」

 女性の社員さんは、怪訝そうな顔をした。

「おや。然し、神秘適性検査の結果、このような数値となっておりまして。
 ご自身でお分かりでは……?」

「お分かりではないです」

「本当に?
 普段の生活で、何か人と違うなと思った事はないですか?
 若しくは、ご両親に何か聞いていたり等は?」

「いや、ないですって。家もその辺にある一般家庭ですし。代々続くしきたりも因習もありませんよ」

「先日の件以降、急に力に目覚めたりは?」

「急に目覚めてもないです。多分……」

「…………」

「…………」

 一時の沈黙が流れる。
 多分、お互いに困惑していた所為だ。
 沈黙を破ったのは向こうだった。

「……まあ、特定の状況下でしか現れない神秘もありますので……。
 引き続き検査を継続してください。
 それと、何か気付いた事があればこの番号までご連絡ください」

 差し出された名刺には、カレントセキュリティズの部署名と、電話番号が書かれている。
 この社員は水崎という名前であるらしい。

 
 プレハブ小屋を出れば、朝焼けなのか夕焼けなのか分からない空が広がっている。
 何かの神秘はあるようだが、何だか分からない。今の所。
 バトル漫画なら、この辺で特殊能力が目覚めて戦えるようになっていたのかもしれないな……等と、どうでもいい事を考える。
 目覚めても困るんだけど。
 自分は一般人だし、これからも一般人でありたいと思う。
 それだけに、まるでお前は普通の人間じゃないのだと通告されたような気がして、僕は悄然としながら表世界へと帰ったのだった。