RECORD
Eno.568 伊達白金の記録
8月31日、夜。
……寝付けない。
冷房はついたまま。
壊れてない。そう何度も壊れてたまるか。
寮の自室は快適だ。
寝れない理由は、環境ではなく、伊達白金自身のほうにあった。
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やっぱりシャンプーがいいんだろうか。ミルポンだっけ?
昼間の出来事を思い出す。
ろろぱーとで買い物を済ませた後、
裏世界で先日の事件を共有した。
不覚にも、消化しきれていなかった恐怖の残滓がまろび出て、
相棒に心配をかけてしまったかもしれない。
ありえないはずの、しかし真に迫る幻覚。
自ら首を切り、血に染まる妹の姿。
︙
怒りに任せて吼え、幻を振り払ったが、あれはその実、
そんなハズがない、と自分に言い聞かせるためのその場しのぎだ。
ありえないと頭が理解していても
『もしそれが真であったなら』という想像の余地が恐怖を生む。
恐怖劇場が消え去った後も。
寮に戻って妹に電話をかけ、無事を確認してからも。
胸の奥でその『もしも』がじくじくとわだかまり続けていた。
……のだが、今はさにあらず。
思考は非常にクリア。
他ならぬ相棒のおかげだろう。
嫌な顔ひとつせずに、弱音を聞いてくれた。
多くを語らず、ただ『大丈夫』と、
隣に腰掛けて手を握ってくれた。
根っこにあった恐怖といっしょに
『弱いところを見せたら幻滅されないか』とか。
『こんなこと引きずってるようでは、足を引っ張るのでは』とか。
そういった諸々の不安もまとめて払拭されてしまった。
それこそ杞憂であったと思い知らされた。
……考えてみれば、みつきはそんなに狭量ではない。
俺の方こそ見誤っていた。反省。
今は、件の幻覚を思い出しても、もう怖くない。
あれはあれで、あり得た『もしも』であったとしても。
俺はあの『もしも』に続く道を選ばなかった伊達白金。
あの悲劇が起きなかった未来を勝ち取ったのだから、
それを素直に誇ろう。
……恐怖が去ったというのに寝付けないのは、
別の感情が眠気をせき止めているからか。
……。
…………。
………………。
伊達白金は、
よもや、
相棒に懸想しているとでもいうのか?
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雑念を振り払うべく、
疲れて意識が落ちるまで
ひたすら素振りした。
伊達白金と8月最後の夜
8月31日、夜。
……寝付けない。
冷房はついたまま。
壊れてない。そう何度も壊れてたまるか。
寮の自室は快適だ。
寝れない理由は、環境ではなく、伊達白金自身のほうにあった。
「……。みつき、イイ匂いしたな……」
やっぱりシャンプーがいいんだろうか。ミルポンだっけ?
昼間の出来事を思い出す。
ろろぱーとで買い物を済ませた後、
裏世界で先日の事件を共有した。
不覚にも、消化しきれていなかった恐怖の残滓がまろび出て、
相棒に心配をかけてしまったかもしれない。
ありえないはずの、しかし真に迫る幻覚。
自ら首を切り、血に染まる妹の姿。
>>5791908
「――ふざけるなよ。
俺の!自慢の!金月が!
あんな、くだらねーイジメに屈して!!
命を断つわきゃ、ねェだろうがぁああッ!!!」
どれほど眼の前の光景が真に迫ろうとも。
どれほどよく識る声でなじろうとも。
どれほど、俺の軸を揺さぶろうとも。
俺の心は、決して腐食することはない。
何故ならば。俺は――。
俺は、白金だから。
怒りに任せて吼え、幻を振り払ったが、あれはその実、
そんなハズがない、と自分に言い聞かせるためのその場しのぎだ。
ありえないと頭が理解していても
『もしそれが真であったなら』という想像の余地が恐怖を生む。
恐怖劇場が消え去った後も。
寮に戻って妹に電話をかけ、無事を確認してからも。
胸の奥でその『もしも』がじくじくとわだかまり続けていた。
……のだが、今はさにあらず。
思考は非常にクリア。
他ならぬ相棒のおかげだろう。
嫌な顔ひとつせずに、弱音を聞いてくれた。
多くを語らず、ただ『大丈夫』と、
隣に腰掛けて手を握ってくれた。
根っこにあった恐怖といっしょに
『弱いところを見せたら幻滅されないか』とか。
『こんなこと引きずってるようでは、足を引っ張るのでは』とか。
そういった諸々の不安もまとめて払拭されてしまった。
それこそ杞憂であったと思い知らされた。
……考えてみれば、みつきはそんなに狭量ではない。
俺の方こそ見誤っていた。反省。
今は、件の幻覚を思い出しても、もう怖くない。
あれはあれで、あり得た『もしも』であったとしても。
俺はあの『もしも』に続く道を選ばなかった伊達白金。
あの悲劇が起きなかった未来を勝ち取ったのだから、
それを素直に誇ろう。
……恐怖が去ったというのに寝付けないのは、
別の感情が眠気をせき止めているからか。
……。
…………。
………………。
伊達白金は、
よもや、
相棒に懸想しているとでもいうのか?
「……ち、ちげーし……。
ちげーよな……?」
雑念を振り払うべく、
疲れて意識が落ちるまで
ひたすら素振りした。
