RECORD

Eno.232 月影誠の記録

9/12

俺にはできない話が多すぎる。


例えば趣味の話。
身近な生物が好きになったのは、生物を殺すためだ。
おかしくなった日を境に何かをこの手で殺すことが生きがいになったから、
殺す殺さないの線引きのために詳しくなったこれを誇ることができない。


例えば両親の話。
俺の両親は分かりやすく毒親だ。
だから親との思い出は悪いものばかりで、人の親の話を聞くと羨ましくなる。
普通を演じて、普通を応じているつもりだけど。上手く応答できているかが不安になる。


例えば食べ物の話。
親に満足に食べさせてもらえなかったから、給食くらいしかまともに食べたことがない。
親にあらゆる興味を奪われたせいで、食に関しては凡そ無頓着。
食べられたならばそれでいい精神で生きている。


例えば催しに遊びに行く話。
人混みでは狩猟本能の気を逸らすことが難しいから、
どうしても遠目で眺めることになってしまう。
個人的にはそれで充分なのだけれども、一緒に遊びに行った人には退屈させてしまう。


例えば好きな人の話。
異世界へと渡って行った、好きな人。
いつか帰ってくるとは約束してくれたけれど。
……こんな俺に振り回されない方がいいから。帰ってこなければいいな、と願っている。




……もしも。
数少ない、何かを殺すことの快楽を手放したとして。
表で生きることを決めて、殺すことがもしつまらなくなって。
克服して、狩りをしなくなってよくなった、そのとき。

そのとき、俺は。
俺には、一体何が残るのだろう。

新しく増やそうとしている趣味だってそうだ。
結局は狩猟本能による快楽の延長線。

妥協と諦観を繰り返してきた俺に、何が残る?
あの日、何もかもがおかしくなった日を境目に。
『俺』という存在は壊れたと同然で。
じゃあ、その壊れた『俺』を直せば、俺は帰ってくるのか。


否。
否、否だ、否でなければ破綻する。
破綻してしまう。イコールなわけがない。
こんなつぎはぎだらけで、親の期待に応えられなくて、
兄のようにはなれなくて、何も、何も与えられなくて、手にできなくて。

じゃあ、俺はこのままであった方がいいのか。
裏に囚われて、裏に救われて。そのままで在る方が、俺で居られるのか。

俺という輪郭は、境界線は。

狼の気質に、塗りたくられて、それを拭ってしまえば、紙に広がるそれは、


「じゃあ、じゃあ俺は、俺は一体、それじゃあ」




なんなの、だろう。



繰り返す。

朝に今日も生きながらえてしまう罪に許しを乞うて。
夜に今日も生きながらえてしまった罪を懺悔する。

あぁ、どうか、どうか。
今日もまたこの許されざる身が心臓を鼓動させ、この地で息をすることをお許しください。



この祈りの先は、一体何に。