RECORD

Eno.232 月影誠の記録

9/22

裏世界にも通じている、とある精神科医の元にて。
今朝、錯乱して左手にナイフを突き立てた。
今は左手の傷跡は跡形なく治してもらい、起きたばかりよりかは精神面でも落ち着いていた。

因みに神秘の話をするために裏世界に来たので、クロも途中から同行している。

花月
「症状に関しては、神秘関係なく精神的な理由と見て良さそうです。
 悪い影響を与えているものもありませんし」


花月
「不味いものが食べやすいのも、自罰意識でしょうね。
 特に食を通して生命に感謝し、信仰を捧げていた」


花月
「信仰とは、心の在り方でもある。
 故に、分かりやすく影響が出たのだと考えられます」




花月先生のことはクロからの紹介だった。
裏世界にいる間に知り、頑張って意志疎通を図りこちらのことを相談してくれていたそうだ。
多分話そうとした3割くらいしか伝わってなさそうだったけど。

花月
「自罰意識を少しずつ解消していくところから始めましょう。
 とりあえず、痛みでストレス解消をしたり精神安定を図る癖が
 ついているようなので、そこの改善も必要ですね」



「……けれど俺は、出来の悪い子供で、親から逃げて。
 全部自業自得で、こうなってるのも俺が全部悪くて」


花月
「だから、自分が許せないんですね。
 だけど、あなたは今日の自罰を見てここへ来てくれました」


花月
「それだけでも、十分偉いし改善の意志はあります。
 ゆっくり穏やかな生活に戻れるようにサポートしますからね」



「…………はい」




優しい、真面目な先生だと思った。
精神科医は当たりはずれが大きいとは聞いていたけれど。
自分には合っている、とは今のところ思う。


花月
「そうそう、あなたは自分の趣味が分からない、見つからない。
 そう言っていましたよね」



「あぁ、はい。
 ……何やっても、好きになれないというか。
 戦う以上に楽しいと思えないというか」



「好き、だとか、楽しい、だとか。
 そういう感覚にならなくて」




神秘の影響と、親による情操教育の失敗。
先生は、そこに感情を抑制しようとする癖がある、と話の中で指摘をしてくれて。
けれど、と。穏やかに笑ってこう告げた。


花月
「私、月影さんが好きなことの法則性は分かりましたよ」



「え……、俺の好きなことの、法則性?」


花月
「はい。月影さんの「好き」は簡単ですよ」


花月
誰かが居ればいいんです。
 一緒に時間や感情が共有できる人が居れば、
 それだけで幅広く何でも楽しめる人です」



「……そんなこと、別に……」



「いや……そうか」




本能的な狩りの快楽は置いておいて。

数ある中でずっと続けてきた『狩り』、ザリガニ釣りは幼い頃に友達と遊んだ。
戦いだってそうだ。クロが一緒に居て、戦っている。
命のやりとりが好きだというのも、相手がいる。
誰かとどこかに出かけることは楽しくて、一人のときとは違った感情を覚えている。
一人で聞いた音楽はただの音でも、男子会で皆の歌を聞いたときは何となくずっと聞いていたくなって。

大勢でなくていい。
一人だけでいい。誰かが傍に居るだけで、世界の見方が変わる。


花月
「……いい趣味をお持ちですよ」


花月
「あなたは、人との繋がりを大切にできる人だ」




―― まるで、人と神の本来の在り方のように。


花月
「近い内にね、うちの娘がこっちに越してくる予定なんです」


花月
「神秘に目覚めて間もなくて、これは神秘を使う練習でブレンドした
 ハーブティーです。精神的にきついときに飲んでください。
 詳しい効果は後ほどお話しますね」


花月
「ちょっと人見知りする子なので、良ければ遊んであげてください。
 母親のお店をお手伝いする、とも言っていましたし。
 月影さんにとっても悪くない話でしょう」





またいつでもいらしてください。
そう、あの人は微笑んで見送ってくれた。

好きになれるものがある。
それが分かって、ほんの少しだけ。穏やかな日々を過ごす未来を想像できた。