RECORD

Eno.232 月影誠の記録

9/23

―― 傷つけるつもりはなかった。

なんて、酷い言い訳だなと思う。
突き放せば傷つくことは分かっていたはずで。
自分のせいで、楽しみにしていたらしい帰還も酷い思い出にしてしまって。
俺の事なんて好きにならなかったら良かったのにな、と考えてしまう。

疑っていないんだから。アヤメから向けられた好意を。
だからこそ、過去の自分の無責任さを殴ってやりたい。
期待させて突き放すやりかたは、兄貴のやり方と一緒だ。



……俺のせいで。
傷つけることしかできないことくらい、分かっていただろうに。
この本能に付き合わせるところから。
加虐欲があって、それを振りかざしかねない。
そんなものを持っておいて、人を好きになるなど烏滸がましい。
全面的に、兄貴の言葉が正しい。



それから、もう一つ。
北摩湖を眺めながら、深く深く己を振り返る。

―― アヤメが帰ってきたことが嬉しくなかったのか。
……嬉しかった、と思う。けれど、それ以上に後悔が強かったのか。
戻ってこなければ、こうしてすれ違うことはなかった。
じゃあ、本心は?
本当に戻ってこなかった方が良かったと思っているのか?
突き放しきれなかったのに?

……分からなくなっている。
自分の本心が。本音が。
どうやって喜んで、どうやって嬉しくなって。

いつも、諦めてきた。
心の抑制をして、誤魔化して、嘘をついて耐えてきたから。
じゃあ、葛山と遊びにいったときのあれは何だったのか。
諦めていたことを、諦めなくていいと分かったじゃないか。



破綻寸前の自問自答。
新月に等しい、月の見えないといっても過言じゃない夜。
北摩湖の湖面は星明りを受けて穏やかに煌めいていた。




そうして、またいつものように繰り返す。
祈りを捧げて、明日も生きながらえる。

朝に今日も生きながらえてしまう罪に許しを乞うて。
夜に今日も生きながらえてしまった罪を懺悔する。

あぁ、どうか、どうか。
今日もまたこの許されざる身が心臓を鼓動させ、この地で息をすることをお許しください。



……こうして祈ることも。良くないのだろうか。