RECORD

Eno.166 結祈伽羅の記録

小魚

母が食べられるのを見ていた。

飢えれば、人は何でも食べる。
生きる為に食べる。

平和だった頃は母の優しさに集っていた人たちが今は母の肉に集っていた。

仕方のない事だ。
……仕方のない事だった。

泣く力ももうないよ、縋る力も出る訳がない。
無気力なケダモノたちの中に僕もいて、僕だって隣に食料が出来た時はそれを食べたものね。
ああ、集るハエがうっとおしい。
腐った魚の香りでも僕からしているの?
……それも今なら、美味しそうだよな。

でもみんな死ねばいいのに。

あんなに美しかった母が醜くなってく。
そしてきっとそのうちに真っ白で綺麗になるのだろう。

一人が肉を差し出した。
手が伸びてそれを口にした。

「そうだ、喰え。もうすぐ迎えが来るから、お前は生かさなきゃなんねぇ」

目の前のケダモノが掠れた声でそういった。
そういってゆっくりと僕を抱きしめた。

生かされる。
ケダモノたちの手でイカサレル。

僕が母に似ているから
僕が美しい顔だから

人の欲、人の業
美しいものはきっとすべてに勝って生きられる。

売られた先で大切にされた時、美味しいご飯が食べられて、愛を貰えた時。
僕はそう学んだんだ。

美しければ幸せなんだって!

かあさん!

かあさん!!

僕に貴方とよく似た顔を残してくれてありがとう!

鏡を見れば母さんに会える。

愛してるよ母さん。

でも貰った名前は好きじゃない。
小魚の腹のようにきらきら艶のある僕の髪にちなんでくれた名前。

でもねぇ、ねぇ?小魚は雑魚って言い替えが出来るんだってさ。
それはあまりにも僕に似合わなくない?

母さんに貰った名前、少しだけ呼びかえて『勇魚』にしたんだ。
大きな全てを飲み込む美しい魚は僕にとっても似合っている。

そうでしょう?