RECORD

Eno.1015 灰原 よたの記録

開かずの扉_03

※この記録には人体に対する残虐・猟奇的な描写が含まれます







ふと、少年が顔を上げた。
周囲を見回す。その場にある石を掠め取るように拾って、地面を削っていく。
一心不乱だった。
弧を描き、そこに十字の線を立てる。男は理科の授業で、これと似たような図を見た覚えがあった。


少年が描くのは星図だった。
否、それが正しい書式の星図であるかは男の知識ではわからなかった。
ただ、円の中に、打ち付けるように点を綴り続ける少年の姿を見て、直感した。


星を描いているのだ。
この世界に、ずっと。



「お前、説明はしてくれるけどなかなか喋らんな。
 ジコヒョーゲン的なんが苦手なタイプ?」


「……」


「まーいいけども!拗れてんのはわかるし。
 でもうまいこと説明したらわかるやつもいんじゃね?一人くらい」



「……ないよ」
「誰も、本当のことを確かめようとはしないから」










少年の吐く言葉は、どこか諦念を帯びて断定的だった。
何度も繰り返した果て、途方に暮れた先にある袋小路で呟かれたかのように反響していた。



「自分の目で見ないと。自分で調べないと。
 正しい答えはわからないし……
 だからきっと、わかろうともしてない」

「外も世界も、どうだっていいんだよ。
 みんなは。生きてたら、しあわせなんだろ」



「ほーん。そか。もったいねえなあ、
 めっちゃ綺麗なのにな、空」

「……」




「きれい?」

「おん?うん」

「ほんと?」

「マジマジ。俺は嘘はつかねえぜ(嘘)」




「…………」






「そ、 」












  ドン。





銃声。



弾は的確に、獲物を射止めた。
脳天を吹き飛ばしていた。
頭部だったものが散らばる。
目前でその身体が崩れ落ちる。
茂みの沈む音。





















即死だ。
男はそう感じた。





「は!?」






声を荒げた瞬間、銃口が揺れる。
フードの奥にある双眸は閉ざされていた。
盲目の射手。
鎖閂式の長銃。
残弾は四発。
構える。




  ドン



     ドン






男は咄嗟に芝へ転がった。
木を盾に隔て、息を殺した。
不味い、やらかした。
具体性もなく後悔が頭を過る。






静寂はたっぷりと45秒ほど場を占めた。




漸くがさりと、向こうで歩を進めるのが聞こえた。
布が擦れる。
大きなものが引きずられていく。
音の正体は容易に想像がついた。

離れていく。
離れていく。
離れていく。




「…………行った、か?」





慎重に木から顔を覗かせる。
そこには流血の跡と弾丸、転がった置物だけが残されていた。
天体望遠鏡は触れられていなかった。
幸いにも、立ったままだ。



「おいおい……」



自分でも恐れるほど乾いた声を落とす。
ここは日本で、令和の時代で、紛争なんかどこでも起きていない。
男が先の光景で連想するのは、大学の時代になんべんも行った外国の貧民街だった。



(いや、流石にそれ以上かもな……
 参ったなこりゃ。なんだってあいつは撃たれた?
 今このタイミングで)





「…………」



(それにあいつ、見えてない割に足取りが完璧だった。
 銃は……なんだ?猟銃?わかんね。
 どのみち人に撃ったら犯罪だろーがよぉ)



血痕に近づく。帰路を赤が彩っている。
その先にあったのは潜戸ではない。



「……」


















「これが」





「灯村ってやつかい。でけ〜なあ!」


「学校くらい広いじゃんよ。
 いや全然それよりあるわ。」



懐からペンダントを取り出して、手袋の中に忍ばせる。
そのまま、男は声を張った。







「富山県薬師岳、湖より南下、高度1600~2000mと想定。
 建物が一帯に連なった“村”。灯村。」

「こちら、登山家灰原 臣!
 今から観光させていただく!」





声を、端末の録音機能だけが拾っていた。