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【日記26】暖簾に腕押しの話

「変な話、してもええ?」

「あんな……あのう、ええと。
兄貴がたまに教えてくれるんやけどね。
向こうで起きてるデカい事件の話」

「学校で休みがちな子がさぁ……、
お休みの理由が裏世界の怪我起因だとガッカリすんねん。
これ何でやろな~って思うてて」

「裏世界が危ない言うんは俺も分かるよ。
怪奇がわんさか仰山おるんやろ?
変な悪だくみしとる奴もおるんやろ?
そら怪我してもしゃーないわな」

「聞くところによると命を脅かす云々の話も
ぽろぽろと出てきてるしな。
誰かが危険を排除せなアカンのもよう分かる」

「最終的には自己責任でどうするか決める。
分かってるんよそれは俺も。せやけどさぁ。
なんかこう……モヤァ~っとすんねん。
心が痒い感じがする」

「これ何でなんやろねえ」

「と思った時に考えてさ。
これ俺たぶん……怒ってんねんな」

「襲い掛かってくる危険に対して?
それもそうやけど、ちょっとばかしちゃう。
そうせざるを得ない状況下に対して?
それもなんやけど、これもちゃう」

「怒ってんのアレや。
怪我を負って休んではる張本人や」

「北摩市市長秘書さんにさ、
無理したらアカンよって何度言われたか
覚えてはる? 覚えてへん?」

「学生生活大切にせえよ、
この青春は今しかないんやでって……
耳タコでなんべんも言われんかったか?」

「それ、あんさんには筒抜けやった?
右から左に受け流しとった?
心にはちょびっとも響かんかったの?」

「分かるでえ、自分を犠牲にしてでも
誰か助けるためには犠牲が必要ンなって
多少の無茶は目ぇ瞑るしかない、
しゃーないって気持ちは」

「でもそれさぁ。あんさんが怪我負ってまで
頑張らなホンマにアカンかったの?
もっと上手く戦える奴おったんちゃう?」

「それはあんさんの日常を擦り減らせてまで
やらなアカンかった事なん?」

「…………。」

「心配してくれる大人なんて、俺達には
長らくおらへんかったからさ。
秘書さんの言葉が、その……あれなんよ。
結構嬉しかったんよね」

「せやから余計に怒ってるんやろな。
秘書さんの言葉が蔑ろにされてる感じがして……
人の心配を完全に無下にしとるワケやない?」

「うはは!いやあ~ええ御身分ですなぁ!
羨ましくて仕方あらへんわぁ!
あんさんは心配してくれる大人が
仰山おってよかったねえ!俺らと違うてな!
心配なんて煩わしいだけやんなあ?
別に無視したって構へんよね!
人生の責任取ってくれるワケやあらへんし?
好きにやったれやったれ!」

「……なぁんて。
イヤミったらしい京都人ムーブも
思わず出るっちゅうモンですわ」

「…………俺ってマジで性格わりぃ~。
素直に心配してるって言えへんの?
キショいわぁ。自分がキショい!」

「……でも心配してくれるうちが華やん?
大事に大事に忠告聞いとかなアカンよ。
いつ無くなるかも分からんモンなら尚更な」

「ま、俺もショウ兄のお説教なんて
馬耳念仏やさかい、人のこと言えへんねえ!
あっはっは!こりゃお互い様っちゅう事で!」
───私はあなたに失望している。
───私はあなたを軽蔑している。
───私は自分自身に失望している。
───私は自分自身を軽蔑している。
あなたが私の痛みを知らぬように。
私もまた、あなたの痛みを知らないからだ。