RECORD

Eno.102 不明門通 辰巳の記録

【日記26】暖簾に腕押しの話










「変な話、してもええ?」


「あんな……あのう、ええと。
 兄貴がたまに教えてくれるんやけどね。
 向こうで起きてるデカい事件の話」


「学校で休みがちな子がさぁ……、
 お休みの理由が裏世界の怪我起因だとガッカリすんねん。
 これ何でやろな~って思うてて」


「裏世界が危ない言うんは俺も分かるよ。
 怪奇がわんさか仰山おるんやろ?
 変な悪だくみしとる奴もおるんやろ?
 そら怪我してもしゃーないわな」


「聞くところによると命を脅かす云々の話も
 ぽろぽろと出てきてるしな。
 誰かが危険を排除せなアカンのもよう分かる」


「最終的には自己責任でどうするか決める。
 分かってるんよそれは俺も。せやけどさぁ。
 なんかこう……モヤァ~っとすんねん。
 心が痒い感じがする」


「これ何でなんやろねえ」


「と思った時に考えてさ。
 これ俺たぶん……怒ってんねんな」


「襲い掛かってくる危険に対して?
 それもそうやけど、ちょっとばかしちゃう。
 そうせざるを得ない状況下に対して?
 それもなんやけど、これもちゃう」


「怒ってんのアレや。
 怪我を負って休んではる張本人・・・や」


「北摩市市長秘書さんにさ、
 無理したらアカンよって何度言われたか
 覚えてはる? 覚えてへん?」


「学生生活大切にせえよ、
 この青春は今しかないんやでって……
 耳タコでなんべんも言われんかったか?」


「それ、あんさんには筒抜けやった?
 右から左に受け流しとった?
 心にはちょびっとも響かんかったの?」


「分かるでえ、自分を犠牲にしてでも
 誰か助けるためには犠牲が必要ンなって
 多少の無茶は目ぇ瞑るしかない、
 しゃーないって気持ちは」


「でもそれさぁ。あんさんが怪我負ってまで
 頑張らなホンマにアカンかったの?
 もっと上手く戦える奴おったんちゃう?」


「それはあんさんの日常を擦り減らせてまで
 やらなアカンかった事なん?」


「…………。」


「心配してくれる大人なんて、俺達・・には
 長らくおらへんかったからさ。
 秘書さんの言葉が、その……あれなんよ。
 結構嬉しかったんよね」


「せやから余計に怒ってるんやろな。
 秘書さんの言葉が蔑ろにされてる感じがして……
 人の心配を完全に無下にしとるワケやない?」


「うはは!いやあ~ええ御身分ですなぁ!
 羨ましくて仕方あらへんわぁ!
 あんさんは心配してくれる大人が
 仰山おってよかったねえ!俺らと違うてな!
 心配なんて煩わしいだけやんなあ?
 別に無視したって構へんよね!
 人生の責任取ってくれるワケやあらへんし?
 好きにやったれやったれ!」


「……なぁんて。
 イヤミったらしい京都人ムーブも
 思わず出るっちゅうモンですわ」


「…………俺ってマジで性格わりぃ~。
 素直に心配してるって言えへんの?
 キショいわぁ。自分がキショい!」


「……でも心配してくれるうちが華やん?
 大事に大事に忠告聞いとかなアカンよ。
 いつ無くなるかも分からんモンなら尚更な」


「ま、俺もショウ兄のお説教なんて
 馬耳念仏やさかい、人のこと言えへんねえ!
 あっはっは!こりゃお互い様っちゅう事で!」








───私はあなたに失望している。
───私はあなたを軽蔑している。
───私は自分自身に失望している。
───私は自分自身を軽蔑している。

あなたが私の痛みを知らぬように。
私もまた、あなたの痛みを知らないからだ。