RECORD

Eno.1807 七條 くもりの記録

箱庭①



実家の玄関の前、深呼吸をする。
大丈夫、大丈夫と消え入るような声で念じる。
言霊を信じて。

「ただいま帰りました」

応接間で椅子に腰掛ければ、目の前には両親と先日顔に水をかけた男。
この男がいることは予想外だ。
家族の話をするつもりで連絡したのに。

「それで、どういう責任の取り方を?」

むすっとした声の主は父。
その男の手前、そういったパフォーマンスが必要なのね。
分かっている。
先日の頬を叩いたのも、地面に頭を抑えつけたのも、
座敷牢に入れたのも、全部その男へ向けてのものなのでしょう。
それでも、とぎゅうと手を握る。

「折角ですがこのお話はなかったことに」

アタシ達は婚約者ではない。
まだ結納もしていないのだから、話がなかった。
それで済む話のはず。

「私は用意していただいたものではなく、
 自分で責任を持って判断をした未来へ進みたいと思います」

申し訳ございません、と頭を下げた。
下手に取り繕わずに本音を伝える。

生まれて初めての我儘。
怖いけど、家族だもの。伝わるわ。
そう信じて、一歩踏み出した。

「……?」

頭を下げたまま、返答を待ったが声が返ってこない。
不思議に思い顔を上げる。
そして、目を疑った。
目の前にいたのはまさしく鬼の形相をした両親。
顔は血が沸騰したかのように赤くなり、目はギョロリと開きっぱなし。
食いしばった歯で口からは空気が通らないのか鼻息が荒い。

「どうし、て」

伝わるんじゃなかったの?
アタシ…どこで間違えたの……?


ガチャリ――

また、座敷牢の鍵が閉められた。