RECORD

Eno.1807 七條 くもりの記録

箱庭③



「くもりの様子は?」

懐中電灯を置き、応接間に戻れば夫の声。
椅子に腰掛け、首を振った。
頭を抑える夫の姿が目に入る。

「どこでこんな悪い事を考えるようになったの」

妹に先に子供を産まれ、ずっと治療を続けてきた末にやっと授かった娘。
しっかりと箱庭の中で育ててきた。
求めれば何でもこなす事が出来た。
それでも足りない。
妹はもう孫が出来たというじゃないか。
急いで娘にも産まさせないと。

私が、この家を継いでいるのだから――

「マリッジブルーみたいなものでは?
 結納を済ませてしまえばくもりさんも落ち着きますよ」

声の主へ視線を向ける。
壌さん。
くもりの幸せの相手にと、見つけてきた人物。
我々の考えに賛同した未来の婿。
水を掛けられたというのに笑って許すと言った青年だ。
この青年以外ではもう無理だろう。

「いえいえ、あんな恥ずかしい状態ではとてもとても。
 しっかりと教育をし直しますから」

「その教育、僕がしますよ」

にこりと微笑むその姿には違和感が。
人が良さそうに見えるが、言葉以外の思惑が分かる。
……そういう人物だからこそ、選んだ。

「届けを出す前は困るからね」

立ち上がる青年に夫が釘を刺す。
そう、世間体が悪くなるのは困る。
学生の間に恋愛結婚なんぞした妹には虫酸が走る。
充てがわれた幸せを享受すべきだ。
娘を妹と同じになんてさせてたまるものか。

「分かっていますよ」

柔和な笑みを携える青年に鍵束を渡し、
おかしくなった娘を正す劇薬を見送った。


箱庭から出ないように、今度は首輪に鎖をつけなければ。