RECORD

Eno.22 雲隠 運太郎の記録

◯真社会性

 

─2017年



消し飛べ!



黒い影が空間ごと周囲を引き裂く。



 闇を司る影の異能。
 雲隠家が発現する、オーソドックスな異能だった。

 俺はその異能を独自にアレンジし、無の空間を一部に生み出すことに成功し、
 相手の防御なども無視して空間そのものを真空にし、切り裂いて使うことを好んでいた。



 都内にある曽祖父が運営する大病院の裏は巨大な怪異の巣になっており、
 俺達は度々駆除やその一部を採取するために赴いた。

 無論、一人じゃない。
 大切な仲間が居た。

「うんたろー、お疲れ様。
 あ、そこ、怪我してる」



「トア。
 そっちも片付いたみたいだな。
 ……ん、ちょっと自分の異能で切っただけ、こんぐらいほっときゃ治るよ」



 トア。
 裏世界で生まれて身寄りのない子供を引き取る、病院に併設された養護施設の子だ。
 俺と同い年ぐらいで、ふわふわしていて

「心配だよー。ほらこっちきて、見せて?」


「心配性だな」


 ……かわいい。いい匂いがする。

「はい、これで大丈夫だよ」


「あ、ありがとう」



俺にはできない、治癒の力を持っていた。
俺は自分自身の異能も危険な部類だから、いつもトアの力には助けられている。


「そういえば、りゅーじろーくん、いつ帰ってくるんだっけ」


「ああ、留ちゃん?
 まだ数年は向こうだってさ」


「そっか、元気だといいね」



 弟……留次郎は、あれから海外へ留学に行った。
 俺よりもずっと頭が良かったから、勉強に力を入れるために。

 その分、俺は俺で、表世界オーバーサイドや勉強では得られない強さを身につけ、鍛えないといけない。
 より一層、そう思った。

「海外ってどんなところなんだろう」


「俺も行ったことないけど……トアは表世界にもあんまり出たことないんだっけ」


「うんー、ボクは日差しに弱いから、出ちゃダメって」


「表世界は日が強いときあるもんな……
 そうだ、乗り物に乗れば大丈夫かな?
 バスとか!」


「のりもの……怪異じゃなくて?」


「表世界にたくさん人が乗れる機械があるんだ。
 また今度見せてやるよ。
 そして俺が大人になったら、乗せて海外まで運んでやる!」


「ほんと?
 やった。楽しみだな」



 養護施設の子は表世界にも出られない奴が多かった。
 表世界での戸籍がないからなのか、しっかりと疑問を持つには俺はまだ幼すぎた。

 トアの白くて細い手が、俺の片手を握る。
 吸い込まれそうな瞳に目を合わせることができない。

「……ん。
 帰ろうぜ」


「そだね、戻ろっか」




 この感情が、俗に言う初恋だったのだろう。

 暖かくて、時々熱くて、穏やかな日々だった。


 *ぷぉおん!*


 そんな時。
 変な音がした。

 表世界の車の音をちょっとぬけた感じにしたような……

「なんだ……?
 トア、ちょっと見てくる。後ろの警戒を頼んだ」



「うん、気をつけてね」





 この出会いがすべての分岐点だった。
 今はまだ知る由もなかったけど。