RECORD
開かずの扉_04

「よしのびどり、見るがいい」

「これが村の地図……
のつもりなんだけど……」


「やべえわ。物置デカく描きすぎた。
もう何も入んねえ気がしますこの空間」

「ちょっちメモ帳だとちっちぇーんだよなあ〜!
しょうがねえけどさ!まあざっくり分かりゃいいんだこれは」

「あの箪笥をズラすとドアが開くだろうから、
そこを起点に探索開始ってワケ。
俺脱出ゲームとかやったことねえけどこんな感じなんかね」

「……」

「のびどりって名前の割にのびねえよな……」
男は先の潜戸を通って、少年が隠れ住んでいた物置にまで戻ってきた。
天体望遠鏡はその場に置き去りにして、辛うじて抱え持てそうな置物だけ傍らに仕舞い込みながら。
頁を捲る音だけが響く。
端末で確認する現在時刻は19:23のまま止まっている。
暖房ひとつない空間では薄ら寒さだけが肌身に纏わりついた。

「おさらいしよう。ここは灯村。
富山県南部の山奥にある。
元々俺が見たのは山小屋のはずだが……」

「山小屋の潜戸を通ったらここに行き着いた。
明らかに外から見たよりも広い場所だ。
で、あのガキ……青くて長い髪の、ボロっボロの、戸星よたってやつがいた」

「あいつから聞けたことはふたつ。
あいつの立場と、この村のこと」

「まず、あいつの立場からだ」

「ちっせえ頃に村の掟……外に出ちゃいけないってやつを破って外に出た。
そこであの空を見て超感動!抜け出し常連になっちまったわけだな」
「それが村んやつらの気に障ってムラハチ扱い。
最期には撃たれて殺された」

「正直意味わかんねえやつだが、まあ気持ちはわかる。
俺もヒメとか親にはどやされてきた側だしよ。
なんかそういうシンパシーとかよしみみてえなのはあるんだ」

「あいつは自分がどんだけ危険でも、空が好きなんだろう。
俺もそう。山が好き。だからここにいる。
いま下山しないで残ってるのは、半分くらいはあいつに成仏してほしいからだな」

「教育方針だかに口出すのはナンセンスかもしんねえけど、
人死が出るんじゃ話は別だしな……」

「あ、あとなんか謎のぬいぐるみと話せるっぽい。のびどりって名前の。
あんまのびねえし俺は話せてる感ゼロだが」

「次。この村のこと。村って呼んでいいのかわからんけど。」

「あいつが言うには現在人口33人。すくなくね?この規模でだぜ。
地元の学校でももうちっといたっつの。
ンでそれぞれに“役割”がついてるんだったか……」

「やべーメモ取ってねえ。なんだっけ。
倉庫番がいたのは覚えてんだけどな」

「あと確か、掟がある。ひとつはさっきも言った“村の外に出てはいけない”。
これはアレだな。多分建物の外NG的な。吸血鬼かい」

「二つ目が、“大竈に近づいてはいけない”。
大竈ってのがあるらしい。これもうちと聞いとくべきだったな。
火の用心的なアレで流しちったわ」

「で、最後に、“番の邪魔をしてはいけない”……倉庫番とかの番だろうな。
これはまあ、仕事の邪魔すんのはダメってことだろ」

「いけないいけないばっか書いてあるとそりゃ破りたくなるよな~」
「わかるぜよた。気持ちはわかる。これは書き方が悪いわ」

「だけど、“どうして”いけないのかは知らねえらしい。
あいつが知らねえのか、村のみんな知らねえのかはわからんが。
これは探り甲斐があるってもんよ!お前もそう思わんか」


「……」

「うりうり」
一頻り言葉を並べた後、男は立ち上がった。
バックパックを背負って帽子のつばを下ろす。
箪笥の中身は空で、鈍い音を立てながらも労せずに動かすことができた。
木造りの扉一枚。
ドアノブのない押戸だった。
深呼吸を重ねて、置物を荷物の中に強引に突っ込む。
手を伸ばす。

「よーし。開口一番ってのは勢いよくだ!
オラァッ!!!」


「ッスーーーーー(バタン)」

「(ガチャ)」

「…………」
開いた先にあったのは、掛け軸の並ぶ和室だった。
壁の一面が障子で仕切られ、押し入れから布団が何枚か覗く。
丁度、押し入れの傍に面する物置の扉から、男は躍り出る形になった。
和室に座る女性と、ただ目が合った。

「あーっす すみません迷子で」
女性は、そのまま傍にあるものを握り締める。

カンッ!!!

「西暦2024年は11月19日、23時21分、34、35、36、37……」

「…………ようこそ、お客人。何用でございましょう」

(ヤベッ 変人だ)