RECORD
開かずの扉_05

「……村に迷い人がお出でになるのは、初めてのことです」
カン、 カン、 カン、 カン、

「私、記録番からは、貴様の来訪の是非を判断しかねます。
村長のもとへ案内いたしましょうか」
カン、 カン、 カン、 カン、

「必要であれば直ぐに案内番をお呼びします。
改めてご用件をうかがっても構いませんか」
カン、 カン、 カン、 カン、

「すげえ話はええ。お願いします。
ンでもその前にひとついいすか?」
カン、 カン、 カン、 カン、

「何なりと」
カン、 カン、 カン、 カン、

「その~」

「それ。ずっと打ってますけど、何?
俺あんま耳に響く音出されるとキツいタイプだからさ、できるなら控えてくれるとありがたいンすけども」
カン、

「…………」

「おーあざっす。何だったんだ」

「秒です」
その女性は、名を明かさず、己を“記録番”とだけ名乗った。
記録番の仕事はたった一つ。
時を記録し続けることである。
故に、彼女は記録し続け、それを他者にも把握できるよう音で示す。そう語った。
木鉦の音が止んだ畳八畳の空間は静閑に包まれ、人の声だけが切り割った。

「で、何だっけ。案内してくれるんでしたっけ?ありがとうございます。
案内番ってヒトについてけばいいんでしょうか?」

「はい。その通りです。いまお呼びします。
響く音は苦手でしたなら、少しだけ塞いでいてください」

「ウィ~」
男が両耳を手で塞ぐのと、その鐘の音は同時だった。
ゴーーン……
ゴーーン……

「おい今のどっから出た!?」

「案内番がここへ向かいます、貴様はここでお待ちください」

「アンタ何か知ってんだろ何か何か何かァ~~~~~~!!!!」
追及の間もなく、数刻──十数秒ほど後、障子が開かれる。

ぬるっ

「ウオォッ視線が暗殺者(素)」
「あヤベ こんばんは~すんませんお邪魔してますいやあありがとうございますマジ」

「…………」

(死んだだろこれマジで)

「案内番。外からの迷い人です。
処遇の判断のため、村長のもとへ案内を頼みます」

「……構いやしませんがァ。
僕一人で?」

「不足が?」

「無ェですね」

(いや死ぬだろこれ)

「あ、あ~~~。アレ?お二人そっくりさんですけど。兄弟とか?
ていうか幾つっすか?けっこう若そうですけど」

「31」

「29です。兄弟でも夫婦でもねェな」

(お~!年上でしたか!これはすみません、非礼をお詫びします)
「マジで?田舎モンいくらなんでも若すぎだろ……」

「おれはさァ身の振り方とか覚えた方がいいぜ」

「気になっただけじゃんかよ……」

(……つーか兄弟家族じゃねえってことはそういうことか。
山奥だししゃーねえがぞっとしねえな)
“案内番”と呼ばれた男はまるで息の切れた様子もなく、一頻り会話の流れが見えたら踵を返した。
ついてこい、と暗に告げる背中はやはり手前に寄って、幽鬼のように不格好だった。
従って長廊下へ一歩踏み出す。
振り返れば、記録番の彼女はつまらなさそうに視線を彼方へ投げている。
「来いよ」。
案内番のにべもない言葉回しは、男に何度も水を打ちかけるかのようで、
歓迎の意志を持たないことを何より雄弁に示していた。

(“雪国じゃサンバは生まれない”、か)
「なあ、ちょっと──」

「貴様さァ」

「おん」

「外から来たんだろう?
なら、見たか?鬼を」

「…………鬼?」

「へえ、心当たりがなさそうな顔だ。
仕方ねェ。じゃあ質問を変えましょう」

「貴様、子はいますか。
いたらこんなとこ来ねェか。
だったら想像するだけでいい。
考えてみてください」

「もし。
貴様の子が、
己の血を分けた子が、
愛しい愛しい我が子がさァ。
鬼に挿げ替えられて、血肉垂れるのも厭わねェ化け物になったら、
貴様はどうする。」

「…………、ああ?」
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【人物紹介】

灰原 臣
登山家の男。直感が鋭い。
“外来人”。

戸星 よた
村の除け者の少年。星が好き。
射殺されている。

のびどり
よたが持ち抱えていた置物。高反発。
曰く、喋るらしい。

???
時を刻み続ける女性。村の人間。
“記録番”。

???
猫背でやつれた印象の男性。村の人間。
“案内番”。