RECORD

Eno.1015 灰原 よたの記録

開かずの扉_05

「……村に迷い人がお出でになるのは、初めてのことです」



カン、 カン、 カン、 カン、 


「私、記録番からは、貴様の来訪の是非を判断しかねます。
 村長のもとへ案内いたしましょうか」



カン、 カン、 カン、 カン、 


「必要であれば直ぐに案内番をお呼びします。
 改めてご用件をうかがっても構いませんか」



カン、 カン、 カン、 カン、 


「すげえ話はええ。お願いします。
 ンでもその前にひとついいすか?」



カン、 カン、 カン、 カン、 


「何なりと」



カン、 カン、 カン、 カン、 


「その~」

それ・・。ずっと打ってますけど、何?
 俺あんま耳に響く音出されるとキツいタイプだからさ、できるなら控えてくれるとありがたいンすけども」



カン、 


「…………」

「おーあざっす。何だったんだ」





「秒です」





その女性は、名を明かさず、己を“記録番”とだけ名乗った。
記録番の仕事はたった一つ。
時を記録し続けることである。
故に、彼女は記録し続け、それを他者にも把握できるよう音で示す。そう語った。

木鉦の音が止んだ畳八畳の空間は静閑に包まれ、人の声だけが切り割った。



「で、何だっけ。案内してくれるんでしたっけ?ありがとうございます。
 案内番ってヒトについてけばいいんでしょうか?」


「はい。その通りです。いまお呼びします。
 響く音は苦手でしたなら、少しだけ塞いでいてください」

「ウィ~」



男が両耳を手で塞ぐのと、その鐘の音は同時だった。



  ゴーーン……

ゴーーン……




「おい今のどっから出た!?」

「案内番がここへ向かいます、貴様はここでお待ちください」

「アンタ何か知ってんだろ何か何か何かァ~~~~~~!!!!」












追及の間もなく、数刻──十数秒ほど後、障子が開かれる。






 ぬるっ 

「ウオォッ視線が暗殺者(素)」
「あヤベ こんばんは~すんませんお邪魔してますいやあありがとうございますマジ」

「…………」

(死んだだろこれマジで)




「案内番。外からの迷い人です。
 処遇の判断のため、村長のもとへ案内を頼みます」



「……構いやしませんがァ。
 僕一人で?」


「不足が?」


「無ェですね」



(いや死ぬだろこれ)



「あ、あ~~~。アレ?お二人そっくりさんですけど。兄弟とか?
 ていうか幾つっすか?けっこう若そうですけど」

「31」

「29です。兄弟でも夫婦でもねェな」

(お~!年上でしたか!これはすみません、非礼をお詫びします)
「マジで?田舎モンいくらなんでも若すぎだろ……」

おれ・・はさァ身の振り方とか覚えた方がいいぜ」

「気になっただけじゃんかよ……」


(……つーか兄弟家族じゃねえってことはそういうこと・・・・・・か。
 山奥だししゃーねえがぞっとしねえな)









“案内番”と呼ばれた男はまるで息の切れた様子もなく、一頻り会話の流れが見えたら踵を返した。
ついてこい、と暗に告げる背中はやはり手前に寄って、幽鬼のように不格好だった。

従って長廊下へ一歩踏み出す。
振り返れば、記録番の彼女はつまらなさそうに視線を彼方へ投げている。

「来いよ」。
案内番のにべもない言葉回しは、男に何度も水を打ちかけるかのようで、
歓迎の意志を持たないことを何より雄弁に示していた。





(“雪国じゃサンバは生まれない”、か)
「なあ、ちょっと──」

「貴様さァ」

「おん」



「外から来たんだろう?
 なら、見たか?鬼を」


「…………鬼?」


「へえ、心当たりがなさそうな顔だ。
 仕方ねェ。じゃあ質問を変えましょう」







「貴様、子はいますか。
 いたらこんなとこ来ねェか。
 だったら想像するだけでいい。
 考えてみてください」



「もし。
 貴様の子が、
 己の血を分けた子が、
 愛しい愛しい我が子がさァ。

 鬼に挿げ替えられて、血肉垂れるのも厭わねェ化け物になったら、
 貴様はどうする。」





「…………、ああ?」








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【人物紹介】

灰原 臣
登山家の男。直感が鋭い。
“外来人”。


戸星 よた
村の除け者の少年。星が好き。
射殺されている。


のびどり
よたが持ち抱えていた置物。高反発。
曰く、喋るらしい。


???
時を刻み続ける女性。村の人間。
“記録番”。


???
猫背でやつれた印象の男性。村の人間。
“案内番”。