RECORD
開かずの扉_06

「想像してみろ。自分の子が鬼に成り代わったら。
取って代わられ、化け物になったら。
貴様はどうするかと訊いているんだ」

「なんだお前急に。えー?
そりゃソイツに訊くよ。子どもをどこにやったってさ」

「で?」

「あん?まあ見つかればいいし、見つかんなきゃーどうすっかな。
そん時ゃしょうがねえってなるか……
でも子どもだとな。ソイツが連れ去ったんだったら許せんかもしれねえ」

「ああ、ああ、そうだよなァ」

「奇遇だな。僕もそうです。そうでした。」

「子供はなァ、産むのも育てるのも大変で。
僕はそれで妻を亡くしてます。
だから家族ってェのが、入れ替わりで生まれた子供ひとりなんだ」

「ま、そいつはしょうがない。彼女も本望でした。
だから、その子だけでもちゃんと育ててやりたかった」
「見れるのなんて10年もねェかもしれないからさ」

「10年?なんで?」

「ああ?25にもなりゃ死んでいくだろう。
僕や記録番は長寿なんだ。外じゃ違うんですかね」

「別種族の話聞いてるみてえになってきたわ。お前人間?」

「人間」

「マジかい」

「話続けるぞ」

「ウィス」

「で、そう、その子供の話だが。」

「攫われたんだよ。鬼にな。」

「あの子が4つの時だった。外に出たからだ。
外に出て、鬼に奪われた。戻ってきたのは格好だけ似た化け物だ」

「それって、」


「当たったな?」

「……あいつの親御さんかい、あんた」

「いンや?違うね。見たんだろ?外で、餓鬼をひとり。
アレなら僕の子供じゃない。アレは僕の子供じゃあない。
だから問い質さなきゃいけねェんですよ。
僕の子を返せってさ」

「ほ〜〜〜ん。へえ〜〜。はあ〜」

「ハッ!くだらねぇーッ!」

「俺は優しくないから言うぜ。アンタ毒親ってやつだろ。
自分の願望に沿わなきゃ自分の子供じゃねえってか!
ンなもん筋が通らねえってんだよ!」

「…………」

「そうかい。ま、見りゃわかる。
案内番の僕が案内してやりますよ。」

「黄泉路にか?
俺にゃわかるぜ、あんた俺を帰す気ないだろ。
鬼から、化け物から聞き出せねえから今度は俺。
生憎だがなーんも知らねえぜ。」

「その“子供”ってのは撃たれて死んだよ。
頭をな。ここの村のやつに猟銃で撃たれて死んだ。
仇討ちがしてえんだったらそれで満足しとけ」

「どの道、お前が一歩も外へ出たがらねえんだったら、
お前がやってることってのはただの自己満足だ。
俺だったら掟なんか丸無視で全部探すわ。
憂さ晴らしに使ってられる時間ねえからよ」

「…………」

「そんで?俺をどこに連れてくつもりだ。
もう曲がったのは三回目。相当奥に来てるのはわかるよ」


「黄泉路かもね」
饒舌に語る口が一度閉ざされる。
代わりに、辿り着いた先。石畳でできた床と下へ続く階段が見える。
木板で仕切られたその先へ、案内番は躊躇なく歩を進めた。
靴の音はひとつ分だけ。
ふと見れば、案内番の彼は足袋を丁寧に擦りながら歩いている。
建物の中は灯りのないまま仄かに明るみを帯びる。
その中でも、彼の持つ灯篭は行き先をよく照らしていた。
視線を促しながら、彼は引き戸を開いた。
そこにあったのは、いわゆる「座敷牢」だった。
四方を石の壁に埋められた鉄柵、その大半は上から木の板などを何重にも打ち付けられている。
中にいるものを逃さぬように。
そうして、居た。

それは、長い髪を薄汚れた地面に躊躇いなく垂らす、一人の少年だった。
手足に枷を付けられ、投げ出されている。
そいつは、
戸星 よたは、確かに生きていて、

男と、目が合った。