RECORD

Eno.329 九条 陶椛の記録

まだ暑い、秋のはじまりの頃

「こちらが今回の結果です。九条さん。
 検査の数値は、当然のように悪いです。
 なにもかも、悪化しています。
 わかっていますね?」

検査の結果を受け取る。
悪い、と言われて渡されただけあって
なにも良くなんてなっていない。
わかってはいたけれど。

「あなたの私情に基づく作戦でした。
 故にあなたを中心に組まれています。
 しかし作戦上、あなたが突出する必要はなかった。
 それを止めきれなかった責任は
 私たちにあります」

「……あのまま時間をかけてたら被害、
 広がってたと思いますけどー」

一応の、抗議と主張。
よくわからない相手だった。
弱っているうちに叩いておきたかった。
だから多少強引にでも灼き切った。

「そうですね。ですがそれで民間協力者である
 あなたに負担を押しつける理由にはなりません。」

私の私情ってさっき言ったじゃん。
それに大人をつきあわせておいて
前衛の人たちとかがぐちゃぐちゃに
されるのヤだよ私。

「私たちは、人手不足によりあなたのような
 子供にまで協力をしてもらっていますが、
 それは子供を犠牲にして戦うという
 ことではありません」

「もうすこし、自分を大事にしてください
 あなたの、未来のために」


「……はぁい」

そう言われてしまえば、もう
おとなしく聞くしかない。

身体の痛みはもう、ない。
ただ、それは人間の身体にとって
いいことだとは限らない。

私の身体は内側から怪奇と複雑に融合している。
その割合は進んでいて、薬剤などで抗神秘処置は
施されているが留めておけるものではなく。
こうして戦闘で大怪我を負って負傷箇所の
再構築などをすれば当然のように怪奇へと近付く。

融合しているのが人間由来の怪奇故に
親和性が高く、機能障害などは生じていないのは
まだ、助かっているという話ではあるけれど。


「それで。これからどうするのだ、九条。
 どうあれ、君の目的は果たした。
 君は平穏な生活に戻ってもいいはずだ」

「どうって。変わらないですよ。
 引っ込んでても変わらないでしょ。
 それで良くなるわけでもないしー
 解決するわけでもないし」

「……それに。
 果たしてないですよ。終わって、ないです。
 姉はまだ帰ってきてはいませんから。
 無事を、確認しただけです」

「続けますよ。
 お姉ちゃんみたいな人。
 私みたいな人。増やしたく、ないので」

私の、未来。

結局のところは、裏世界で神秘に関わっていくしかないんだろうなとは思う。

表で、神秘管理局と無関係な仕事に就くことは
難しいだろう。いろいろな意味で。
べつに、それを望んでるわけでもないし。

私の身体はもう、表のお医者さんに
診てもらうことも出来ない。
まともに映らない部分が多くて。

表で事故にでもあえばその処置で神秘が晒されて
機能が低下して、もしくは停止して
たぶん、死んでしまう。
人間の皮と肉で隠されてるだけだから。

神秘管理局に依存しなければ生きていけない。
まともに維持も出来ない。
そういう身体なのはわかっている、つもり。
べつに、それが嫌だというわけでもない。
良くしてもらってるのは、わかるよ。

だから続けるよ。
ひとを、助ける仕事を。
ひとを襲う怪奇を、ころして。

薄暗い道を、少しでも明るく照らす。
私は、その光のひとつでありたい。


「……そうですか。
 それは私としても助かります。
 あなたは貴重な戦力ですからね」

「それならば、人間で在りなさい。
 人間として、生を謳歌しなさい。
 私たちはあなたが人として表で
 生きられるように、手を尽くします」

「わかってるよ。大丈夫だってー。
 お姉が帰ってくるまで死んでなんていられないし
 もう、どこかへ消えたりしたくもないしさー
 すっごい楽しんで、しがみついてるよ。
 手放したくなんて、ないよ。
 ……心配してくれて、ありがと」


……昔よりも。大事にしてるよ。
なんとなく生きてた頃よりも。
まともな人間だった頃よりも。

生きたいと、思ってるよ。