RECORD
Eno.232 月影誠の記録
10/12
『嘘つきは泥棒の始まり』ということわざがある。
平気で嘘をつくようになると、いずれは泥棒行為も平気になってしまうぞという戒めの言葉だ。
俺は平気で嘘をつく。
自身は親の期待に応えられない、出来損ないだから。泥棒ではなくとも、悪い子だという意味では真だと考えている。
息をするように嘘を吐き、仮面を被り人に紛れる。
まるで人狼だな、と自分を嘲笑う。
人間と見せかけて、実体は人の皮を被った化け物だ。
自身はとっくにおかしくなっている。
血の香でむせ返るような高揚を覚えて、加虐欲にまみれている。
生を殺すことに快感を覚えて、死に瀕した生を見ると涎を垂らしそうになる。
花も咲き誇る瞬間よりも枯れて朽ちる終の瞬間が好きで。
人として、イカれた感性を持っている。
神秘を得てから、『生命が獲物に見えている』。
今はすっかり慣れてしまったから意識を逸らせるし、苦痛でもない。
対処法も性質も分かった今は、かつてほど苦しいとは思わない。
小食で良かったと思う。
これに関しては、時折平気で飯を抜く母親に感謝しなければ。
普通に食べていれば、『飢え』に耐えられなかったかもしれない。
常に美味しそうな料理を出されても、あまり食べられないのであれば意味がない。
食べられるようになろう、とは思ったけれど。慣れすぎるのも問題かもしれないな、と推測。
……じゃあ、もしも嘘をつかずに素直になれば。
自分は果たして、もっと生きやすくなるのだろうか。
善人に、真っ当な人生を送れるのだろうか。
否、だ。考えるまでもない。
嘘をやめた俺は、平気で生を殺し、死に逝く様に口角を上げ、社会の敵に一転する。
結局悪人になるのだから、嘘つきでいる方がお互いのため。
人として生きたいから心も人だと嘘をつく。
誰も傷つけたくないから加虐欲を押さえつける。
嘘で塗りたくって、誤魔化して、そうすることで平穏を甘受して。
俺は日々を、穏やかで幸せに過ごしている。
俺にとって。この嘘が、誠だ。この嘘が、誠でありたい。
……もしもこの嘘が必要なくなったとき。
俺には、何が残るのだろうか。そんな漠然とした不安も、心の奥底に眠っている。
何もかもが必要なくなれば。
きっと、そこに残るは出来損ないの事実だけ。

北摩湖の湖面は、今日も静かに揺れている。
その水面に吸い込まれてしまえば、楽になれるのだろう。
それを許せないから、一線を越えずにこちら側で過ごしている。
……明日また、兄から電話がかかってくるんだろうな。
平気で嘘をつくようになると、いずれは泥棒行為も平気になってしまうぞという戒めの言葉だ。
俺は平気で嘘をつく。
自身は親の期待に応えられない、出来損ないだから。泥棒ではなくとも、悪い子だという意味では真だと考えている。
息をするように嘘を吐き、仮面を被り人に紛れる。
まるで人狼だな、と自分を嘲笑う。
人間と見せかけて、実体は人の皮を被った化け物だ。
自身はとっくにおかしくなっている。
血の香でむせ返るような高揚を覚えて、加虐欲にまみれている。
生を殺すことに快感を覚えて、死に瀕した生を見ると涎を垂らしそうになる。
花も咲き誇る瞬間よりも枯れて朽ちる終の瞬間が好きで。
人として、イカれた感性を持っている。
神秘を得てから、『生命が獲物に見えている』。
今はすっかり慣れてしまったから意識を逸らせるし、苦痛でもない。
対処法も性質も分かった今は、かつてほど苦しいとは思わない。
小食で良かったと思う。
これに関しては、時折平気で飯を抜く母親に感謝しなければ。
普通に食べていれば、『飢え』に耐えられなかったかもしれない。
常に美味しそうな料理を出されても、あまり食べられないのであれば意味がない。
食べられるようになろう、とは思ったけれど。慣れすぎるのも問題かもしれないな、と推測。
……じゃあ、もしも嘘をつかずに素直になれば。
自分は果たして、もっと生きやすくなるのだろうか。
善人に、真っ当な人生を送れるのだろうか。
否、だ。考えるまでもない。
嘘をやめた俺は、平気で生を殺し、死に逝く様に口角を上げ、社会の敵に一転する。
結局悪人になるのだから、嘘つきでいる方がお互いのため。
人として生きたいから心も人だと嘘をつく。
誰も傷つけたくないから加虐欲を押さえつける。
嘘で塗りたくって、誤魔化して、そうすることで平穏を甘受して。
俺は日々を、穏やかで幸せに過ごしている。
俺にとって。この嘘が、誠だ。この嘘が、誠でありたい。
……もしもこの嘘が必要なくなったとき。
俺には、何が残るのだろうか。そんな漠然とした不安も、心の奥底に眠っている。
何もかもが必要なくなれば。
きっと、そこに残るは出来損ないの事実だけ。

「…………考えすぎ、って言われるんだろうな」
北摩湖の湖面は、今日も静かに揺れている。
その水面に吸い込まれてしまえば、楽になれるのだろう。
それを許せないから、一線を越えずにこちら側で過ごしている。
……明日また、兄から電話がかかってくるんだろうな。